「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{113}Bettencourt, B. A., & Sheldon, K. (2001)

集団において関係性と自律性の欲求が同時に満たされるかを確かめた調査・実験。

 

むかしむかし、関係性と自律性は互いに阻害し合う関係だと思われていた。集団は意思決定を妥協させる存在であり、意思決定の強調は集団との別離を引き起こすと考えられていた。でも自己決定理論[76]はそうではなく、関係性と自律性は独立した要因であり、集団における役割にどれだけ納得しているか(役割の内在化がどれだけ進んでいるか)によって両方充足されたり、片方が阻害されたりするとした。これを確かめるのが今回の研究群。

基本的に、社会的集団の繋がり・集団における役割・主観的幸福の相関を測る調査・実験群である。研究4では集団に対する効力感の指標として有能感を導入し、先3つの指標との関係を測った。研究4は時間経過による有能感の経過を測っている。研究5ではランダムに割り振った役割に従うディスカッションを行い、役割と自身の行動の一致度合いを軸に議論された。

5つの研究全てにおいて、社会的集団における役割が確固としたものである人ほど、集団との繋がりが強いと報告した。また、この傾向は主観的幸福と正の相関を持った。2つの指標が時間経過による有能感充足を予測することから、役割を果たすことで有能感の充足も起こることが示唆され、これも主観的幸福と正の相関を持つ。

関係性と自律性は独立した要素であり、両方が満たされた状態はありうる。集団の中での役割を内在化できており、かつその役割を果たせている時、主観的幸福は高くなる

 

5つの研究全てにおいて、繋がり・役割・主観的幸福の回帰分析とともに、繋がり・役割・否定的感情の分析も行われた。前者の結果は一致した方向が見られたが、後者の結果に一貫性は見いだせなかった。このことより、欲求充足は否定的感情の打消しよりも、肯定的感情の表出として顕在することが示唆された

 

[105]とか今回のような研究は、たくさんの基礎研究を一気にやって一般解を見出すというやり方で妥当性と信頼性を確保している。だから、1つ1つの研究は質問票配ってその結果を単に求めだすという簡素なつくりになっている。ここ10年ぐらいで発表された真面目な研究は単に結果を求めだすだけでなく、用いた指標の妥当性を調べるフェーズを挟んでいる。5つの研究にはそうしたフェーズがないなど、ちょっと雑な部分も見える。こういうところは後のレビューとかでも突っ込まれたりするが、結果がひっくり返ることは少ないように感じる。統計において数は正義である。

 

 

参考文献

Bettencourt, B. A., & Sheldon, K. (2001). Social roles as mechanism for psychological need satisfaction within social groups. Journal of Personality and Social Psychology, 81(6), 1131–1143. https://doi.org/10.1037/0022-3514.81.6.1131