「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{164}Robert Mitchell, Lisa Schuster, Hyun Seung Jin. (2020)

ビジネスにおけるゲーミフィケーション利用が真に動機づけに関与しているかを調査したもの。

 

仮説群。H1:心理的欲求の充足は内発的動機付けに影響を与える。H2:内発的動機付けは(a)心理的欲求の充足を媒介し、(b)行動意図に正の影響を与える。H3:統制的スタイルは心理的欲求の充足に負の影響を与える。H4:自律性スタイルは欲求充足に正の影響を与える。

 

手続き。職場等でゲーミフィケーションアプリを利用したことがある291人(平均31歳 男性68%)を対象。オンライン調査。AmazonMechanical Turkを介し収集、参加報酬あり。人口統計学的要素、PENS、Multidimensional Work Motivation Scale (Gagne et al. 2015)、Behavioral Intention Scale (Cronin, Brady, & Hult 2000)、を用いた。尺度の順番は無作為化された。

 

結果。ゲーミフィケーションアプリの使用理由は生産性の向上が一番多く(32%)、次いでタスクの遵守(19%)、教育と訓練(16%)であった。よく用いられるアプリはHabitica(21.6%)、次いでEpic Win(4.8%)だった、使用アプリの傾向はかなりばらけていた。ゲーミフィケーションアプリの利用は大半の例において任意であった(88%)。

分析の際、PENSの自律性指標と有能感指標が分離できなかったため、まとめてCETニーズ尺度として扱う。

H1:CETニーズの充足はアプリ使用への内発的動機付けを正に支持したが、関係性充足は有意な相関を示さなかった。

H2:アプリによるCETニーズの充足はアプリの使用意図に正の有意な影響、関係性は有意な関係をしまさなかった。このことは、CETニーズ充足が内発的動機付けを介し行動意図に影響を与えることを示している。

H3:アプリ利用が統制スタイルに基づいている人は、アプリによるCETニーズ充足度において負の有意な相関を示し、関係性充足に正の有意な相関を示した。統制スタイルを介す場合、欲求充足は使用意図を有意に予測しなかった。

H4:アプリ利用が自律性スタイルに基づいている人は、アプリによるCETニーズ充足度・関係性充足度ともに正に有意であった。

 

ときどき、ゲーミフィケーションアプリの使用をもってしても動機づけが有意に上がらないとする研究があるが、それらの研究はアプリ利用を強制する文脈であることが多く、ゆえにそのような結果を得ている可能性がある。逆説的に、今回の研究においては参加者の大半が任意使用であったため、CETニーズの充足による内発を介したアプリ使用意図の正の相関、またアプリ使用によるニーズ充足の正の相関、これらのサイクルが確認された可能性がある。強制的な文脈はCET基準の自律性充足を阻害し、これがアプリ効力を低下させていることが示唆された。この系統のお話はゲームベースラーニングにおいても確認されている、強制の文脈が一番緩い群において動機づけが一番上であった。

関係性の充足はCETベースではなくOITベースのお話で用いられる。そのため、内発的動機付け文脈の際に有意な相関を示さなくても特に破綻はしない。が、自律性と関係性はよく「互いに占領しあっている」なんて表現されるが、それは別のお話。

OITベースのお話が今回の研究に用いられたが、動機づけスタイルの研究を参照した場合、調整は外的調整と取入れ的調整にて大別されている可能性があり、4段階にて区別し同様の施行を行った場合、より厳密な結果を得られる可能性がある。

 

 

参考文献

Robert Mitchell, Lisa Schuster, Hyun Seung Jin. Gamification and the impact of extrinsic motivation on needs satisfaction: Making work fun?. Journal of Business Research, Volume 106, 2020, Pages 323-330, ISSN 0148-2963, https://doi.org/10.1016/j.jbusres.2018.11.022.