「ゲーム心理学」知見保管庫

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{34}要約:Ron Tamborini, Nicholas David Bowman, Allison Eden, Matthew Grizzard, Ashley Organ. 2010

本研究は、楽しさに関連する高次の欲求を検討することを目的として、Ryan (2006)の研究をもとに実験を行ったものである。

Ryan (2006)は楽しさを欲求の充足と定義し、それを裏付ける4つの研究を行った。これは、ビデオゲームを刺激材料とした楽しさと欲求の充足の関連を測定した最初期の実験である。だが、具体的に論じられたのは欲求充足と楽しさとの相関関係のみであり、すべての変数とそれらの間にある経路を記載したモデルは提示されていない。また、実験的な研究では関連性の測定が省かれているなど、妥当性が充分に確保されていない。本研究はこれらの主張の妥当性を確保するため、自律性・有能性・関連性の欲求の充足から生じる楽しみのモデルの提供を目的とした。

仮説。ゲーム操作は自律性,有能性への正の経路、マルチプレイは関連性への正の経路を持ち、3つの心理的欲求は楽しさへの正の経路を持つ。また、ゲーム操作は関連性へゼロの経路、マルチプレイは自律性,有能性へのゼロの経路を持つ。

方法。2(従来のコントローラー操作/体感コントローラー操作)×2(CPU相手/人間相手)の被験者間実験を行った。米国中西部の学部生n=129を対象。参加者は4条件の1つにランダムに割り当てられ、CPUまたはサクラの人間と一緒にボウリングゲーム『brunswick pro bowling』を1ゲームプレイした。関連性充足のため、参加者は自分と相手のスコアを合計し、上位1チームに賞金を与えると告げられた。有能性充足のため、一緒にプレイするCPUまたは人間は参加者の成績と同等になるように制御された。最後に、参加者に欲求充足度、ゲームの体感操作の知覚、感じた楽しさについて答えてもらった。

結果。仮説は予想通りだった。体感操作の知覚の強さは自律性および有能性の充足と正の相関を示し、マルチプレイは関連性の充足と正の相関を示し、心理的欲求の充足は楽しさと正の相関を示した。また新たに、知覚されたビデオゲームのスキルが自律性と正の相関を持つことが確認された。これらの変数からなるモデルは、楽しさの分散の51%を説明する。

以上より、楽しさを欲求充足として定義することには一定の妥当性があることが示唆された

限界事項に、モデルの事後的な修正,体感操作について,実験的設定が自律性充足に与える影響,欲求充足の測定の尺度の信頼性,心理的欲求の幅の狭さ,刺激材料の6項目が挙げられるが、それぞれが妥当或いは許容できるものであると説明している。

最後に。今回のモデルは欲求充足により楽しさが現れることを示しているが、それぞれの欲求をどれぐらい満たせば楽しさが現れるかについては説明できない。また、楽しさが現れる閾値の個体差についても説明できないことについても考慮すべきである。

 

 

参考文献

Ron Tamborini, Nicholas David Bowman, Allison Eden, Matthew Grizzard, Ashley Organ. Defining Media Enjoyment as the Satisfaction of Intrinsic Needs. Journal of Communication, Volume 60, Issue 4, December 2010, Pages 758–777