「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{18}Elisa D. Mekler, Florian Brühlmann, Alexandre N. (2017)

ポイント・レベル・リーダーボードの効力を自己決定理論の文脈で説明しようと試みたが、ゲーム要素だけでは意欲は向上しないことを説明することになった実験。

 

method

独立変数をポイント・リーダーボード・レベル、従属をパフォーマンス・内発的動機付け・自律性・有能感に定めた。

画像アノテーションタスク(Machajdik and Hanbury 2010)を採用。抽象絵画を5秒間提示した後に、反転して入力領域が提示、絵画を特徴づけるタグの入力を求めた。これを15枚分施行した。

対照群は特にテコ入れなし。

ポイント条件では、入力したタグごとに100点を獲得、画面右上に表示される。タスク終了後に最終スコアが表示され、それ以上の意味を持たなかった。

リーダーボード条件では、参加者は画面右側のリーダーボードで4名の架空の参加者と現在のスコアを比較することができた。リーダーボードに載るには最低でも10個のタグを生成する必要があり、3位は30タグ、2位は60タグ、1位は100タグを保有した。これは参加者にとっての難度の高い目標としても機能すると考えられた。

レベル条件では、参加者は「次のレベル」と書かれた縦のプログレスバーとそれに対応するレベルに到達するために必要なポイントが提示された。1000点、3000点、6000点、10000点ごとにレベルアップした。

パフォーマンスはタグの量と質によって測定された。誤字脱字やスペルミスのタグは除去し、絵画の特徴を抑えているかを基準に採点した。

プレイ後に、IMI・自律性欲求充足尺度・因果志向を測定、自己申告。

大学のデータベースから参加者を募集。合計273名(male=84 平均32.80歳)が参加した。参加者全員にタスクの達成とは全く関係しない報酬が付与された、タスクに影響されない報酬はタスクへの内発的動機づけに特に影響をもたらさないからである。

 

結果として、3つのゲーム要素は動機づけや欲求充足の傾向を示すことはなかった。対照群と3つの実験群に有意差はなく、全体の動機付けは自律性志向群のほうが統制的志向群よりも高かった。タグの量はタグの質を負に予測した、またタグの量は3つのゲーム要素によって変動しなかった。

考えられる原因を挙げる。

一番はゲーム要素とプレイするタスクとのかみ合わせの悪さだろう。とってつけたような要素への貢献がプレイしているタスクに対する優位性の確保につながらないと知覚された時、それは無意味であると判断されるのかもしれない。無機能的なフィードバック。これはタスクの性質を分析し言語化しない限り、ゲーム要素の導入はとってつけたものとなり、無機能的なフィードバックを返すものとなる可能性がある。

リーダーボードをプレイヤーの実際のスコアと同期させるという手段も考えられるが、この場合、内発的動機付けではなく勝敗による動機づけの差分が大きくなる。

また、付与したゲーム要素はどちらかといえば外的報酬のような外発的動機付けとして働く要素である。レベルもポイントもリーダーボードも外的因果によって評価される。なのでCET基準ではなくOIT基準のほうが好ましかったのかもしれない、報酬も提供されていることだし。

タスク自体が負荷のかからない簡単なものだった可能性があり、また見いだせる戦略性も薄かった(タグをいっぱい生成すればとりあえず点は稼げる、といった具合に)というのもある。

フィードバック表示が薄く有意に認知してなかった可能性も考えられる。また短時間的な暴露では特に「積み重ねがもっともな充足になる」であろうポイントが機能しなかった可能性がある。

ゲーム要素それ自体が動機づけを発生させているわけではないことが示唆された、貴重な研究。それを提供する文脈とタスクとの関連性も動機づけにとって重要であり、ゲーム要素はその表出の1つに過ぎない。

 

 

参考文献

Elisa D. Mekler, Florian Brühlmann, Alexandre N. Tuch, Klaus Opwis. Towards understanding the effects of individual gamification elements on intrinsic motivation and performance. Computers in Human Behavior, Volume 71, 2017, Pages 525-534, ISSN 0747-5632, https://doi.org/10.1016/j.chb.2015.08.048.