「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{169}Ricardo Rosas, et al. (2003)

ゲームボーイを用いた遊び主体のゲームベースラーニングを用いた実験。

 

命令ツールとしてみた場合、ゲームはかなり高機能であること、それを用いた学習に関する仮説が述べられている。

 

用いたゲームハードは任天堂ゲームボーイと同じ。ソフト内容は研究チームによって開発。「あくまでも遊びをメインとし、学習を偶発的にした」「学校のカリキュラムに従って1年生と2年生の読解力と算数の内容をカバー」「上昇階段的な難易度の増加とフィードバック要素」「内容の難度をプレイヤーに合わせるシステム付き」「いつも触れるようなゲームとぱっと見変わらないUI」を持っていた。

ゲームは読解能力や計算能力を問う5つのゲームからなった。

 

6校の一年生・二年生の計1274名対象。758名が実験群に分配、12週間、通常の授業の中に一日20~40分のプレイタイムが導入された。347名が内部統制群に分配、実験群と同じ学校に通い、介入はなかった。169名が外部統制群に分配、実験群と違う学校に通い、介入はなかった。

生徒対象、言語能力と計算能力の事前・事後テスト、嗜好・娯楽の傾向調査。教員対象、事前に期待できる変化と事後に観察できた効果の報告、授業観察ガイドラインに則った生徒の授業中の様子の観察。

 

結果。実験群は特に計算能力において好成績を残した。実験群と内部統制群に差は生じなかったが、実験群-(内部統制+外部統制)/2では有意差が生じた。

実験群と内部統制群はビデオゲームを好む傾向が見られた。教員の観察記録と統合した時、この傾向は授業内でのゲームプレイを目に見えて喜んでいることの表れとも考えられる。実験群は終了時点でもゲームプレイに意欲を示し、この食いつきは従来の教育活動ではまず見られない。実験群と内部統制群には交絡変数となる社会的要因の差分はない。

導入と運用に関して、特に大きな混乱はもたらされず、日常の授業にすんなり導入できたという。

 

この研究は原因究明というよりかは、ほんとにゲームがネガティブな効果しかもたらさないのか、という切り口の探索研究に近い。その導入が授業内で熱中できる時間を作り、偶発的成果だが学習成果に有意差が発生したことは、ゲームプレイがポジティブな効果をもたらすことを示唆したといえる。

また、内部統制群と実験群の成績に有意差が生じなかったとあるが、これはゲームベースラーニングを導入しても成績の著しい低下は招かないことの証左ともいえる。一日に20~40分、授業内でゲームプレイをしていても、である。

予想外の効力としては、ゲームを通じたクラスメートとの交流の発生である。攻略情報や成績の共有などが活発に行われたとされている。おそらく授業外でのゲームプレイは封じられている(記述がない)が、こうした交流はSDTの関係性充足につながる。

また、ゲームベースラーニングが小学生に好まれ、受け入れられたことが予想外の効力といえる。小学生らは授業内でのゲームプレイを待ち遠しく思い、手に取れば耳が音を拾わなくなるほどに。

学習目的を前面に出すのではなく、ゲーム目標を達成するために偶発的・副次的な学習が求められる設計も功を奏したのかもしれない。誰も学習のためにゲームをプレイしているのではない。身につくとされている高次の認知能力はプレイ中に暗黙に習得されるものである。学習目標を前面に出した場合、ゲームが抱える目標が競合し、目標をロストする可能性がある。

 

 

参考文献

Ricardo Rosas, Miguel Nussbaum, Patricio Cumsille, Vladimir Marianov, Mónica Correa, Patricia Flores, Valeska Grau, Francisca Lagos, Ximena López, Verónica López, Patricio Rodriguez, Marcela Salinas. Beyond Nintendo: design and assessment of educational video games for first and second grade students. Computers & Education. Volume 40, Issue 1. 2003, Pages 71-94, ISSN 0360-1315, https://doi.org/10.1016/S0360-1315(02)00099-4.