「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{135}Hoffman, B., Nadelson, L. (2010)

ゲームプレイの動機付け、またエンゲージメントを予測する変数はなにかを調査したもの。

 

米国南東部大規模大学の学部及び修士課程189名(女性75.3% 平均24.4歳)対象。週5時間以上ゲームプレイしていることを条件とした。ゲームに対する習慣や態度を評価するもの(Video Game Play: Chou nad Ting 2003)、目標志向、認知的要求の高い活動への関与傾向を評価するもの(Cacioppo and Petty 1982)、ゲームの達成感や自身の認知(TEOSQ: Duda 1989)、を質問紙で回答してもらう。

また年齢・性別・人種等の人口統計学的要素も収集した。また同意を得た参加者に対し12の質問からなる非構造化面接を行った、インタビューは文字起こしされ、コーディングされた。

 

結果。定量的・定性的な結果を統合して結論を出す。

定量的な結果より、ビデオゲームへの関与を予測するのは週当たりのプレイ時間、次いでマルチプレイの時間、性別である。週当たりのプレイ時間を予測するのは性別、マルチプレイ頻度、目標達成の順である。週当たりのプレイ時間は男性が多く、関与の値も同様である。

プレイ動機としては「現実からの逃避や楽しさの追求」「マルチプレイ等の社会的要因」「ゲームに関連する目標の達成」の3つが84%を占めていた。[57]などの先行研究の結果よりも逃避動機を掲げる人が多い。

プレイ継続理由としては「マルチプレイ等の社会的要因」「挑戦や実験など適応的なゲームコントロールの知覚、またフロー体験」「ポジティブ感情」が上位に挙げられる。グラフィックや世界観などの要素は人によって継続的なプレイ要因となる。

インタビューの"ゲームをすることでなにが学べるか"という問いに対し、参加者の答えは「高度な戦略的知識の習得」から「何も得られない」まで幅が見られた。結果、なにかを学習しようと意気込んでゲームプレイする傾向はみられなかったが、ゲームプレイ中に暗黙的にスキルを学習する傾向は見られた

ゲームプレイへの関与に関して性差が顕著に表れた、女性はゲームプレイに対する意欲が低い傾向が見られた[132]。

また、ゲームに関連する目標の達成もゲームプレイに強く関わっており、一部社会的要因(つまり、貢献)に還元されている可能性がある。また、目標達成のための実験的行為で咎められることがないという認識も重要である。

 

プレイ動機は楽しさの追求・現実からの逃避・社会的要因・目標達成が大部分であり、学習を目的としたプレイは調査面接ともに有意ではなかった。確かに、ゲームプレイは暗黙的なスキル習得が見込めるし、動機付けを持続させる構造もある[102]。だがそれが教育現場に転用できるかどうかは懐疑的なところがある

文脈が違いすぎるのだ。ゲームはどれだけ挑戦しても現実に直接的害は及ばさないしどれだけ実験しても咎められない。だが教育現場は挑戦による失敗が外因に評価され、これを強く指摘される。ゲームプレイの動機はCET定義の内発的動機付けに支えられており[101]、OIT基準の教育現場にゲームプレイの動機付け持続法が転用できるかは疑問視される。

 

 

参考文献

Hoffman, B., Nadelson, L. Motivational engagement and video gaming: a mixed methods study. Education Tech Research Dev 58, 245–270 (2010). https://doi.org/10.1007/s11423-009-9134-9