「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{102}Immersyve Inc. (2007)

プレイヤーの欲求充足の知覚(The Player Experience of Need Satisfaction:PENS)の概論。

 

プレイヤーは"何故"楽しさを知覚するのかに焦点を当て、その理由をSDT[76]の概念を用いて言語化したもの。基本的に、楽しさの表れは心理的欲求の充足からなるものであり(Ryan et al. 2010)、ゲームプレイの継続や深度強化には欲求充足が欠かせないと主張する。

有能感[101]。直観的な操作はプレイヤーの意思決定を滞りなくゲーム内世界に反映させるために必要。歩くだけでも複数の操作を要求されるゲームは、意思決定の反映のための労力が大きすぎることを理由にプレイを断念する確率が高まる。操作は目的ではなく手段。ゆえに、素早く覚えられるような操作を組み、ゲーム内体験に突っかかりがなくなるよう意識するべきである。

自律性。ゲームは内発的動機付けにより支えられる行動である[75]。現実の基準とは異なる行動の範囲、どういったプレイングをするかという選択の機会、行動と選択を理解するための十分な情報提供、中断の自由。これが削がれた場合、プレイヤーは何のために遊んでいるのかも、どれだけのことができるのかもわからす路頭に彷徨うことになり、離脱を選択する可能性が増える。

関連性。内発的動機付けが軸となるゲームプレイではやや補助的な立ち回りだが、しかしマルチプレイ等による欲求充足がゲームプレイ継続の要因であることは疑いない。

没入感。直観的な表示による世界観理解のための情報、として独立で扱う。グラフィック・サウンド・モデルのモーション等がそれにあたる。これらが違和感なく高品質であればあるほど、プレイヤーの気を引き付ける[55]。

欲求充足による楽しさの表出やゲームプレイ継続の強度は、ゲームジャンルによって多少異なるが、基本的には自律性と有能感の充足はどのゲームジャンルにおいても楽しさと強く相関している。

暴力的な要素が楽しさに関連するかについても議論。多少のゲーム選好には関わっているが、基本的には暴力的な描写が楽しさに直結することはない。暴力的なゲームによる楽しさの知覚は、やはり心理的欲求の充足に伴うものである[74]。暴力的描写により喚起された感情は、競争要素により喚起されたと主張する論文もある[70]。

ゲームプレイに伴う楽しさへの理解はこれまで明文化されておらず、ゆえにプレイヤーがなぜ楽しさを知覚しているのかを正しく把握することも難しかった。PENSはゲームプレイに伴う楽しさのメカニズムを言語化するものであり、よりよいゲーム体験を考察するための資料として扱える。

 

 

参考文献

Immersyve Inc. (2007). PENS v1.6—Subscale Scoring.