「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{86}解良 優基, 中谷 素之 (2019)

期待-価値理論の概要と近年の傾向について。

 

期待価値理論は、特定の水準で課題を成し遂げようとする心理現象である達成動機付けを説明する、古典的な枠組みの1つ。有名なのはAtkinsonらのモデルとEcclesらのモデル。

Atkinsonのモデルは、達成動機=(成功動機-失敗回避動機)×(主観的成功率×成功・失敗時の感情の強さ)で示すことができ、感情の強さは1-主観的成功率で示される。このモデルの特徴は主観的成功率と成功・失敗時の感情の強さが反比例的関係にあり、価値が期待によって決定することにある。

Ecclesのモデルは社会的影響・個人差をモデルに組み込み、最終的に動機に影響を及ぼす要因として期待と価値を設置した。期待と価値は、個人の信念や効力感、他者の態度の知覚、前者2つが構築される社会的・文化的・個人的要因から成るとしている。Atkinsonのモデルとは違い、期待と価値を独立した要素として扱っている。またこのモデルは、理数系の科目に対する動機付けの性差を説明するために開発されたものである。

 

Ecclesのモデルは、期待を目下の課題をどれだけうまく遂行できるかに関する信念、価値を目下の課題をやりたいと思わせる質的な側面と定義している。

価値は4つに分類される。課題をこなすことで得られる楽しさを指す興味価値、課題の達成が自己の強化につながるという認知を指す獲得価値、特定の目的に対する有用性の認知を指す利用価値、課題を行う上でのネガティブな側面を指すコスト

コストの主な内容として、達成のために必要な努力量を指す努力コスト、別の課題を行うことで発生する時間的ロスを指す機会コスト、恥などの失敗した時の心理的デメリットを指す心理コストが挙がる。

 

他の動機付け理論との相違。

達成目標理論。ルーツは期待-価値理論にあるが、理論のうちの価値に重きを置き、次第に独自に発展していったとされる。達成目標理論は動機付けの中でも認知(課題価値)の側面に焦点を当てた理論体系であり、社会的・文化的・個人的側面に焦点を当てる期待-価値理論とは毛色が違う。

自己決定理論。特に有機体統合理論において、内発的動機付けと興味価値、統合的調整と獲得価値、同一化的調整と利用価値に類似点が見られる。が、自己決定理論は心理的欲求の充足という普遍的な要素を軸に、期待-価値理論は個人差を取り入れたモデルを軸に、それぞれ議論を進めている。ゆえに、自己決定理論は個人の選好による動機付けの選択、また選好の構築を説明できないという側面がある。自己決定理論はいいゲームの共通項を説明できるけど、特定の個人がなぜそのゲームを好くのかを上手に説明できない。

学習動機の2要因モデル、との相違は本文読め(時間足らず)。

 

期待価値理論の課題として、課題価値の細分化や4つの価値の関係性を見た研究の少なさ、コストに焦点を当てた研究の少なさが挙げられる。

 

 

参考文献

解良 優基, 中谷 素之 課題価値のもつ概念的特徴の分析と近年の研究動向の概観 アカデミア. 人文・自然科学編 2019, 17巻, p. 95-116