「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{87}草本 明子, 高橋 純, (2023)

PCを用いた協働学習が、生徒の心理的欲求の充足を介した動機付け向上につながるかを実験で確かめたもの。

 

授業構造としてはグループワークを基礎とする(関係性充足)。グループに課せられた課題の詳細を自由に決めてよいとした(自律性充足)。この時グループに課す課題は比較的難度の高いものであり、これを達成すること、成果物をクラス全員の前で発表することで自身の能力を示す機会を与えた(有能感充足)。

個人作業とグループ作業の際に、他者の成果物を参照することを可とした。終了時、他者の成果物に対し評価を送ることができ、これを閲覧することができた。他の授業との差別化はここであり、参加者はPCを用いて他者参照ができる環境にあった。

女子中学生を対象(実験1 n=44, 実験2 n=84)。理科科目を課題として取り上げた、実験1群は化学、実験2群は物理。差分として、実験1群はPCを用いた作業が初めての群であり、実験2群は半年間PCを用いて日常的に作業していた群である。

 

結果として、心理的欲求の充足、内発的動機付けの向上が見られた。

 

内発的動機付けの向上の効果量が比較的小さい(Cohen's d. 実験1 0.19~0.32, 実験2 0.09~0.11)。

群間の差分について。自由記述調査票の結果を参照する限り、1群は有能感とPCを活用した調査に関する記述が、2群は心理的欲求とPC活用による成果物の質向上に関する記述が多く見られた。これを参照に「日常的にPCを活用していることで、高難易度の課題が課されても、協働学習や他者参照をもちいて優位に立ち回れる」とした。2群間では有能感の充足の値に差が見られた。

関係性充足について天井値が見られた。事前の心理的欲求と内発的動機付けも充分に高かった。理論的中央値である3を超え、心理的欲求に関しては4に近い数値を示していた。

協働学習と他者参照-心理的欲求充足-動機付けのパスについて分析されていない気がする。結果の項目でやっていることは、自由記述調査票の内容のタグ分け・内発的動機付けと心理的欲求の事前→事後の変動の計測・学習に対する意識の主観的変化…で終わり。協働学習と他者参照の効力は考察に記述されているのみである。今回の構造が心理的欲求充足と内発的動機付けの向上に寄与したことが示唆されるが、授業構造全体がそれをもたらしているのか、協働学習がそれをもたらしているのかが区別できない。

いつもの自己申告制から始まるお決まり文章。客観的証拠との関連性は計測されていない。

結局、この実験はなにがしたかったのだろう。

 

 

参考文献

草本 明子, 高橋 純, 自律性の欲求・有能性の欲求・関係性の欲求の向上に着目したクラウド環境を基盤とした協働学習における1人1台端末活用の有用性, 日本教育工学会論文誌, 論文ID 46140, [早期公開] 公開日 2023/06/13