「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{206}Sedikides C, et al. 2019

ナルシシズムのSDT的解釈。

 

ナルシスト。会話を支配する傾向や自己誇示の目的でSNS利用、注目と賞賛を渇望する。協調的ではなく、共感性・恥じらい・罪悪感に乏しい。退陣的なレンズをもって他者を蔑視し、また競合他社をさげすむ。親密さではなく自分を称賛してくれる友人を選択する。競争的で達成志向の強い環境にはそそられるが、調和的で長期的な環境には耐え難い。

彼らは自身の優位性を誇示するが、基本的には事実と乖離する(つまり、ナルシストであるからと言って成績がいいわけではない)。彼らは自身の能力を過信し、否定的なフィードバックに直面した時は責任転嫁するか目を背ける、物語を信じ続けていたい。

また、先導者たる性格ではあるが、行き過ぎた自己呈示・調和保持のための社会的規則(いわゆる礼儀)の無視・対人関係の悪化・妨害行為などがこれを阻む。投資判断において自身の能力を過信するあまり、乱高下する株を購入し失敗する傾向が現れる。

Etiologyから見た時。Kohut(1977)などはナルシシズムを親の愛の欠如からくるものとしている。曰く、親の感情的放棄や突発的な怒りの防衛策として、膨らんだ自己概念を抱え、他者から"親で満たすはずだった"欲求を補う。Millon(1981)はナルシシズムを過剰な愛と服従による産物と定義している、まぁ親もナルシスト傾向が強いとなりやすい。最近の縦断的研究ではこちらが支持されている(Thomaes et al. 2018)、がナルシストに発展するかは他の変数によっても左右される。

 

「他者を欲求充足のための道具的な対象としてみなしている」傾向がうかがえる。

ナルシストの行動はOIT基準で考えた時、統制的動機付けよりである。賞賛・地位・名誉など外的因果に評価基準が備わるものを欲したがる、外的調整傾向。これは目標内容理論においても同上。また、他者に対する優位性を確保しなければならないという内的な圧も持ち合わせている、取入れ的調整傾向。ただし彼らは自身による判断でこれを達成することを望んでいる、同一化的な傾向もあるため、一様にこの動機づけであるとは言えない。が、外発的動機付けから脱することは難しいだろう、「動機づけに揺らぎが大きい」と記述されているが、これは外的因果により評価が一変するためそれにつられて動機づけと圧力・統制が変動するためと推測。動機づけの軸は外部からの賞賛であることにブレない。

心理的欲求の充足についてどう解釈するか。共感性と協調性の欠如から、自律性と有能感は充足され関係性は不満気味であるともとらえられる。が、防御反応の観点から、ナルシストは欲求不満の産物であるとみなすこともできる。あるいは、代替欲求の表出、地位や名誉を追い求めることからも充分に理解できる。

また、ナルシシズムは欲求阻害行為を持ち掛けやすい。自身の優位性の確保と賞賛を浴びることを目的に、自己中心的な判断・批判に対する攻撃的な態度・他者の失敗の避難またはシャーデンフロイデ・罪悪感を抱かせるなど他者の感情操作、などを行う傾向にある。なお、自身が同じ欲求疎外行動の対象になったとき、競合他社としてみなすため基本的には攻撃的となる。

ではどのような人と付き合えるのか、それはお互いに道具的に賞賛を浴びせることができる競合しない他者あるいは上位者となる。

 

 

参考文献

Sedikides, C, Ntoumanis, N, Sheldon, KM. I am the chosen one: Narcissism in the backdrop of self-determination theory. J Pers. 2019; 87: 70–81. https://doi.org/10.1111/jopy.12402