「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{189}April Tyack, Elisa D. Mekler, 2020

HCI研究におけるSDT引用の実態をレビューしたもの。

 

HCI Human Conputer Interaction。この領域の研究目的の1つに、プレイヤーとコンピューターの相互作用を構成するものを理解することがあり、より魅力的な体験の提供、またエンターテインメント以外の関与要素の言語化と一般化を目標としている。類似にゲーミフィケーションシリアスゲームなどがある。

 

110本を対象。

対象の61.82%がプレイヤーエクスペリエンスについて触れていた、ジャンル固有の経験、アバターカスタマイズが与える影響、感情移入の効果などである。

基本的にはCETの内発的動機付けの概念が言及されている、これは対象の54.55%で展開された。また暗黙的ではあるが基本的心理的欲求理論、つまり欲求充足に関しての言及もされた。逆に、外発的動機付けについて言及した論文は少なく(20.91%)、これは当概念を議論するOIT引用の傾向があまり見られないことにある。

自律性に関するあいまいな記述がみられた。単に「選択の自由」とするところもあれば「自己との一致を維持しながら因果関係のある主体になろうとする」と細かく表現するところも。添えるが、自律と独立は意味が異なる用語である。

外発的動機について、単に外的報酬によって駆動される動機づけと説明する論文があったという。厳密にいえば、これはOITの外的調整にあたり、外発的動機付けではない。またアモチベーションの定義があいまいな報告もあるという。

63.46%がSDTをバックにした計測機器を少なくとも1つは使用していた。内発的動機付け目録IMIとPENSが代表的、UPEQ, PXI(111), BPNSがこれに続く。これらの指標を用いるためにSDTを引用する例もあり、そうした例は理論に細かく言及しない"大雑把な"引用であることが多い。「活動が内発的動機付けに訴えることで、内発的動機付けが活発になる」みたいな説明になってることも少なくない。

SDT以外の理論と組み合わせて主張する論文が27.27%あった。

「プレイヤーは外発的報酬によって動機づけられている」という発言(162)はSDTによって裏付けされておらず、経験的な支援もない。

 

ゲーミフィケーションよりもゲームベースラーニングを題材とした研究に多い傾向な気がするが、内発的動機付けのみに焦点を当て、あいまいな結果を得るということがある(例えば 143)。ゲームベースラーニングの実験環境が環境なだけに内発的動機付けが育ちにくいという一般傾向も報告されているし(139)。そもそも内発的動機付けというのが「単なる興味」から「抑えられない好奇心」までを含むあいまいな概念であること(129)も考慮すると、やはり変数は幅を持たせるべきである。

個人的には動機づけスタイルの概念を持たせるのがいいかなぁ。縦断的分析で、動機づけの変動とその要因を突き詰める形で。バックはOIT主体。

 

 

参考文献

April Tyack and Elisa D. Mekler. 2020. Self-Determination Theory in HCI Games Research: Current Uses and Open Questions. In Proceedings of the 2020 CHI Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI '20). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, 1–22. https://doi.org/10.1145/3313831.3376723