「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

1: Mufan Luo, Jeffrey T. Hancock.(2020)

自己開示と主観的幸福に関するレビュー。

 

インターネット強化型自己開示仮説IESDによれば、オンライン自己開示は対面式開示よりも関係の質を向上させることができるとした。社会的保障仮説と強化仮説の競合箇所に着目した観点からの考察もされている、前者は孤独や社会的不安を抱える人がオンラインでつながろうとし、後者は社会的に有力な人が相互作用強化の場として用いるとしている。

 

自己開示が幸福に与える影響は4つのメカニズムにより説明される。

 

知覚されたつながり帰属意識・受容・包摂が幸福に正の影響を、排除・孤立が負の影響を与えるのはもはや常識。オンラインな場は受容や包摂を受け取る場所として期待できる。

 

社会的支援。対象が人間との相互作用を知覚・表現し、そこから得る社会的便益のこと。関係性動機付け理論で問われることに近い。他者が対象のことを知らなければ相互作用したくてもできないため、自己開示は社会的支援の重要な経路として考えられる。オンラインな場は他者からのリアクション(いいね,など)を強調するため、より高いレベルの支援の知覚をするかもしれん。

 

資本主義と信頼性(Capitalization and authenticity)。自己開示が幸福に及ぼす影響は、その引き金となる事象の重さに依存すると仮定。正の気分であれば正の事項を、負の気分であれば負の事項を、それぞれ開示すると思われる。また、正のフィードバックは支援知覚からのつながりの感情の高まりを予測し、負のフィードバックは排斥感からの欲求阻害を予測する。

基本的に、真の自己開示は幸福に有益である。開示情報と自身の乖離を発生させず、代理欲求的な回路が生じないため、素直に欲求充足が発生するためと考えられる。偽の自己開示はストレスを生じさせる可能性がある。開示情報と自身の乖離、理想と現実の乖離を知覚しその慢性化は無力感の発生につながる、また代替欲求的な充足がされ、間接的な欲求阻害がもたらされる。オンラインな場では、偽の自己開示がしやすいという問題がある。

 

対人関係の動機。関係性発展を目的とした自己開示は、親密さの獲得を目的としているため、オンラインな場における頻繁な自己開示、また真の自己開示を予測する。

社会的保障理論によれば、比較的強い孤独やつながりの欠乏を知覚している人はその補填として自己開示が顕著になる可能性があり、これを支持する研究結果が存在する。開示することでつながりの欠乏をごまかすことが可能だからだとされている。

ただし、心理的苦痛が低い人は正の事項を、高い人は負の事項を開示する傾向にある、これは資本主義の項目にて説明済み。また、心理的苦痛が高い人は偽の自己開示を行いやすいという傾向にある、効力感または欲求阻害による極端な値の出力(これだけやれば期待通りの値が出力されるだろう、いやどうせ無力である…という反芻により強化される誤った強度の表出)、結果どうなるかは信頼性の項目にて説明済み。そして、負の開示ばかり行う人は支援知覚の機会を損失する可能性がある、負の開示は負の感情を引き起こすきっかけになり、よって好まれないためである。

 

自己開示と心理的幸福は相互作用している。この論理を用いれば、表出としての自己開示の傾向を探ればその人の心理的苦痛や主観的幸福の状態が推測できることを示唆している。

また、この主張を取り出して「ばんばん自己開示していこう」というのはちょっと言葉足らず。気分が落ち込んでいるときに無理やり求めたら、負の開示により聞く側が萎えちゃう可能性がある。自己開示とは双方のやり取りがあって初めて正に働くものであり、無理な開示は逆効果である。それにヤマアラシのくだりも考えられる。

ただ開示はその子の情報や傾向を知るために重要であり、もし代替欲求的な傾向(地位・名誉・金銭・物欲など)が顕著にみられる場合は警戒したほうがいいのかもしれない。偽の自己開示が極端にみられる場合、相応の理由やバックグラウンドが潜んでいる。

もし自己開示の側面から変えたいのであれば、少なくともその開示を聞いてくれる周囲の存在が要となる。オンラインな場での開示の場合、偽の自己開示によるいいね稼ぎ、代替欲求の充足に奔走する可能性があり、正直おすすめはしたくない。あと、人間は意外と話を真に受けてくれるし、そこまで興味もないので。

 

 

参考文献

Mufan Luo, Jeffrey T. Hancock. Self-disclosure and social media: motivations, mechanisms and psychological well-being. Current Opinion in Psychology, Volume 31, 2020, Pages 110-115, ISSN 2352-250X, https://doi.org/10.1016/j.copsyc.2019.08.019.