「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{19}Anesa Hosein.(2019)

女子におけるSTEM学位取得状況とゲームプレイの傾向の関係を探った調査。

 

2次データアプローチ、すでに集計された統計情報を用い仮説を検証する方法を用いる。英国経済社会研究評議会ESRCが資金提供するプロジェクトの1年間の横断的調査と、13~19歳の青少年を対象とした縦断的分析LSYPE(Anders 2012)の2つを用いた。

前者は20歳未満のn=814(male= 333)。STEM学位、マルチプレイゲーム・ウェブゲーム・コンソールゲームのプレイ頻度を取り上げる。

後者は7回にわたり、Wave1でn=15570、Wave7でn=8323。オーバーサンプリング対処に加重標本を使用。学位、有能感、過去の成績、自律性、経済的状況(IDACIスコア)、民族、関係性、ゲーム強度を取り上げる。ゲーム強度は非ゲーマー(0時間)、ライト(~3時間)、平均的(~8時間)、ヘビー(9~時間)に分類。

 

前者のサンプルより。ゲームの種類を問わずゲームを高頻度でやる女性はSTEM学位を取得する傾向が強かった。

 

後者のサンプルより。ヘビーゲーマーである女性ほどPSTEMの学位を取得する傾向が強かった。一般に、民族・自律性・経済的状況・過去の成績が学位取得に大きく寄与する傾向にあった。女性において、(比較して)ゲーマーでないことは学位なしになる確率が4.1倍になるが、(比較して)経済的に困難であることは学位なしになる確率を58.3倍にする。

学位状況にかかわらず、時間経過により女子のゲーマー人口は減少した。もともと平均的・ヘビーに属していた子の3/4が時間経過によりゲーム強度を下げ、低いゲーム強度にとどまろうとした。とどまろうとする傾向は男性に比べ強く見られた(女性73%:男性41%)。

 

論文の序盤でも問われていた女性の社会的アイデンティティに関する主張について。男性的と決めつけられるSTEM教育従事と長時間のゲームプレイ。今回の仮説は、STEM教育に従事するコミュニティの一員であることを証明するために、自身の教育行為に正当性を持たせるために、ゲームプレイに従事するというもの。この主張の補強としてSDTの心理的欲求充足が用いられている。

ただ、今回の調査はその主張を裏付けるものとは言い難い。STEM教育従事の正当性としてのゲームプレイであれば、STEM教育従事の時間経過とともにゲームプレイ強度が上がっていくはずだが、女子においてそのような傾向は見られず、全体的にプレイ強度が低下していった。

女性はたびたびゲームプレイに対する動機が弱いことが取り上げられるが、おそらく、動機の発生や動機づけ維持における優先順位が異なる可能性がある。ここに性差が働き、結果的にゲームプレイやSTEM教育従事に…であれば、社会的要因が動機を揺さぶることも考えられる。だが今回、それは支持されなかった。おや?

論文では、おそらく女子は勉学に対しより良心的であり、結果としてゲームの動機が弱くなっているとしている。

STEM学位取得とゲームプレイ強度には有意な相関関係が見られた

女子に対する社会的要因の介入を用いた縦断的かつ長期的な研究が求められる。女子のSTEM学位取得が普遍的であり、なんなら称賛されるという刺激を長期間暴露させ、女子の動機がどう変化していくのかを観察する。これでもし変動がなければ、あるいは有意ではあるが分散が小さい場合、頭を悩ます問題となる。

 

 

参考文献

Anesa Hosein. Girls' video gaming behaviour and undergraduate degree selection: A secondary data analysis approach, Computers in Human Behavior, Volume 91, 2019, Pages 226-235, ISSN 0747-5632, https://doi.org/10.1016/j.chb.2018.10.001.