「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{167}Mayer, R. E., & Moreno, R. (2003).

マルチメディア理論、概論。

 

前提として3つの仮説を置く。人間の情報処理システムは聴覚情報・言語情報を処理するチャンネルと視覚情報・絵画情報(そして言語情報)を処理するチャンネルがあること。各チャンネルには容量限界があること。情報を理解するためには両方のチャンネルに相応の負荷と認知処理が必要であること。

記憶容量や学習できる事柄は事実上無限だが、そこに書き込むメモリの性能には限界があり、結構簡単に飽和する。この飽和を回避するための考察手段がマルチメディア理論である。

 

以下、飽和の具体例とその解決策を列挙する。問題はすべて「雷の発生構造を解説する2分間のアニメーション」を背景としている。

 

問題1:1つのチャンネルに対する過負荷。雷の発生経路をアニメーションで表示しながら、字幕でも同様の説明を行う。視覚チャンネルが言語と絵の情報を同時に処理しているため、過負荷が生じる。

 解決策。字幕で提示している言語情報を聴覚刺激に置き換える。

 

問題2:2つのチャンネルに対する過負荷。アニメーションとナレーションで説明しているが、提示のペースが速い。情報処理に追われ、過負荷を起こす。

 解決策。情報と情報の間にクールタイムを設け、詰め込みすぎない。もしくはアニメーションを見る前に教材などで事前学習を行う。

 

問題3:余計な情報による過負荷。それ自体は興味深いが本題に直接かかわりのない余談が混ざったり、本題以外の情報の解像度がやけに高かったり。認知能力という限られた資源をそちらに割き、本題の習得が進まない可能性がある。

 解決策。本題と絡みのない情報を排除。もしくはいま焦点をあてるべき情報にハイライトを当てる。

 

問題4:混乱した形での提示。例えば、アニメーションと字幕の位置が極端に離れているなど、本質情報が散在しその収集だけでも労力を用いる場合。情報の紐づけなどを行なわなければいけない状況は過負荷を起こす。

 解決策。情報をひとまとめにする。状況を解説する文章があれば、それを図説の隣に配置する。また、ナレーションなど他のチャンネルへの情報が使える場合、そっちで情報を伝えるようにする。

 

問題5:提示された情報の乖離。アニメーションとナレーションの情報が同期していない。2つの情報を2つのチャンネルが別々に処理しようとするため、過負荷を起こす。

 解決策。情報を同期させる。利用者の心的イメージ能力を利用するという方法もあるが、施行できる人は限られる。

 

 

参考文献

Mayer, R. E., & Moreno, R. (2003). Nine ways to reduce cognitive load in multimedia learning. Educational Psychologist, 38(1), 43–52. https://doi.org/10.1207/S15326985EP3801_6