「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{163}Sanne L. Nijhof, Christiaan H. et al. (2018)

遊びと子供の発達、疾患を患い遊ぶことができなくなった子供への対処をレビューしたもの。

 

遊びの定義は学者の間でも揺らいでいるが、自発的で・一定量のルールがあり・限定された空間にて・喜びの感情が伴う・目的的行為、という認識は大体一致している。

そして、その行為が特に小児の発達に深くかかわっていることは疑いようのない事実である。"特に"と強調しているが、遊びは大人においても確認され、同様に重要であるとされる。

遊びはその施行に現実的な空間から一歩距離を置いた専用の空間内で行われ、それは行動的なものだったり、物体との接触・操作、あるいはごっこ遊び等の社会的なものである。その行為自体が心身発達に寄与し、また行為をともにする人間との社会的関係の構築または発展を担う。ごっこ遊びは現実問題の代替的な再現を行い、問題解決や実験的行為など高次の認知能力発揮の場として機能する。

遊びはラットなど人間以外の生物においても確認されており、その発達に深く寄与していることが実験で確認されている。特にラットに関しては社会的遊びが報酬の高い活動であることが実証されている(Achterberg et al. 2016)。

 

遊びは、探索活動が生得的に引き起こされていることを証明するかのように自発的に発生するが、幼いころから慢性疾患を患う小児はこの遊びへの関与が減少する。

慢性疾患自体は物理的現象だが、その発生は対象の日常生活に大きな制約をかけ、これが対象の心理・社会的困難を引き起こしている(Pinquart and Teubert 2012)。小児がんの生存者は特に神経認知的な問題や学習障害(Peckham 1991)、社会的機能の障害(Nijhof et al. 2016)を発症する傾向が高い。

小児の発達の重要とされる遊びも制約により満足にすることができず、発達が阻害されていると推測。発達に遊びが重要であるとする主張と根拠(Graham and Burghardt, 2010; Pellis and Pellis, 2009; Špinka et al, 2001; Vanderschuren and Trezza, 2014)を理由に、遊びへの暴露は慢性疾患を患う小児の心理的幸福と発達を改善できると考えられている。ただし、これを直接的に示す研究は乏しく、現段階は間接的証拠からの推測しかできない。めちゃ求められている。

 

この遊びへの暴露方法の1つとして、コンピュータゲームの利用が考えられている。身体稼働が制限される小児への提供にあまり抵抗はない、もし身体稼働が許されるのであれば、Switch(論文ではWii)・VRなどの体感操作が用いれる。また問題解決や挑戦的・実験的行為など高次の認知能力が試される。代替的な空間による現実の再現は容易であり、現実では不可能なことも施行可能。湧き出る楽しさは代替欲求などではなく、心理的欲求の充足または没入によるものである。

ゲームが人間にもたらす認知的・神経科学的影響は計り切れておらずこれも推測の域を出ないが、逆説的に、それらは探求すべき課題として提示されている。

 

 

参考文献

Sanne L. Nijhof, Christiaan H. Vinkers, Stefan M. van Geelen, Sasja N. Duijff, E.J. Marijke Achterberg, Janjaap van der Net, Remco C. Veltkamp, Martha A. Grootenhuis, Elise M. van de Putte, Manon H.J. Hillegers, Anneke W. van der Brug, Corette J. Wierenga, Manon J.N.L. Benders, Rutger C.M.E. Engels, C. Kors van der Ent, Louk J.M.J. Vanderschuren, Heidi M.B. Lesscher. Healthy play, better coping: The importance of play for the development of children in health and disease. Neuroscience & Biobehavioral Reviews, Volume 95, 2018, Pages 421-429, ISSN 0149-7634, https://doi.org/10.1016/j.neubiorev.2018.09.024.