「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{129}鹿毛 雅治, (1994)

内発的動機付けの概論と系譜、性質について。

 

歴史。

内発的動機付けの概念は1930~40年代に主流だったHullの動因低減説やFreud精神分析的本能理論に対する反論だとして出来たもの。この2つは「行動は性欲とか食欲とか本能的な欲求に基づいてのみ引き起こされる」としたが、この前提は探索行為を説明できなかった。Harlow, Harlow, & Meyer (1950)などの探索行為を主題とした研究により、人が情報を積極的に求める存在であることが証明され、動因低減説が誤りであることが示された。また生理的欲求等の基本的欲求の欠乏による動機と自己実現のための欲求による動機を区別し、後者の重要性を強調、精神分析的本能理論とは異なる動機付け理論が展開されていった。

探索行為が内発的動機付けと呼ばれるようになったのはYoung (1961) やMurray(1964) あたりから。この前は類似概念が動因命名アプローチなんて言われてたけど、概念が動因(欠乏を主軸とする動機の言語化)の定義を満たしていないこと、White (1959)によるコンピテンス概念の言語化を受け、新たに名付けられた。

もう少し経つと、知的好奇心と称される探索行為が2つに区分できることが主張される(Berlyne 1971)。それぞれ特殊的探索と拡散的探索である。

同じく1970年代から、内発的動機付けに関する一大イベントが生じる。そう、報酬を題材とした一連の議論である。詳しくはDeci et al. (1999)を閲覧。また同時並行で内発的動機付けを促進/抑制する条件が研究で洗い出され、CET構築に繋がっていく{125}。そして、内発的動機付け研究はこのCETを基軸に展開されるようになる。

 

概念の変化。

初期の内発的動機付けは認知的な情報処理プロセスに焦点を当てたもの。新規的で、複雑で、驚きと、あいまいさを持つ物に対する理解したいという欲求が内発的動機付けの中心と位置付けられた。知的好奇心{42}が感覚的に近い。

ちょっと時が進んで、内発的動機付けという言葉が出てきたあたり。Young (1961)は内発的動機付けと外発的動機付けを区別、前者を目的的行動、後者を手段的行動と概念化した。行為そのものが目的か、行為が目的を果たすための手段か。よく使われる内発的動機付けの概念はここ。

自己決定による概念化。CETの自律性概念が反映されたもの。その行為の原因が自分に帰属しているか、或いは他者が握っているのか、という因果律の所在の認知により内発的か外発的かが異なるというもの。

フロー理論(Csikzentmihalyi 1975){80}を代表とする、主観的知覚・感情を主軸に置いたもの。SDTみたいなマクロな見方ではなく、よりミクロな視点から内発的動機付けを解釈しようとした。

論文が執筆された当時、1990年代はこれらの概念を包括した指標を作ろうという試みが行われた。報われたかどうかは知らない。

 

これらを踏まえ、内発的動機付けを一言で表すのならば「自己目的的な学習の生起・維持過程」となる。また、内発的動機付けは熟達志向性と自律性の2つの性質を併せ持つ物ともいえる。

 

注意点として、内発的と外発的は単なる対立関係にないこと、内発的の概念化は行動の目的や理由など動機の『質』を説いたもの、認知的動機付け研究と促進・抑制効果研究には一定量の断絶があること、フロー理論など感情基軸の理論は論文執筆時点ではまだ言語化しきれてない部分があることが挙げられる。

なお、最後の方にNicholls (1984)の達成目標理論について触れられている。

 

 

参考文献

鹿毛 雅治, 内発的動機づけ研究の展望, 教育心理学研究, 1994, 42 巻, 3 号, p. 345-359, 公開日 2013/02/19, Online ISSN 2186-3075, Print ISSN 0021-5015, https://doi.org/10.5926/jjep1953.42.3_345, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjep1953/42/3/42_345/_article/-char/ja,