「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{121}西村 多久磨, 河村 茂雄, 櫻井 茂男 (2011)

動機付けのメタ認知方略を介した学業成績への影響を調査したもの。

 

まずSRQ(Self-Regulation Questionnaire; Ryan and Connell 1989)を軸とした自己決定理論に基づく学習動機尺度、自律的学習動機尺度を新たに作成。内的調整・同一視的調整・取入れ的調整・外的調整の4項目にそれぞれ5つの下位尺度の計20項目からなる。予備調査は公立中学校2校1~3年生n=590、本調査は公立中学校5校1~3年生n=1226(うち1校290名に再検査を依頼)。

次に、OIT定義の各動機付けとメタ認知方略の使用の度合い、学業成績の関係を横断的調査。公立中学校1校1~2年生n=173。Time1(2007,11)とTime2(2008,11)の2時点を集計。自律的学習動機尺度、メタ認知方略の使用強度、中間テストの5教科の合計点数を用いた。

結果。Time1同一視的調整-Time2メタ認知方略の使用-学業成績のパスが有意であった。Time1外的調整は学業成績に負の影響を与えた。Time1同一視的調整-学業成績のパスは有意ではなかった。Time1内的調整-Time2メタ認知方略の使用-学業成績のパスは有意ではなかった、学業成績への直接的パスも同様。

なぜこうなったかは2つの動機付けが重視するところにある。内的調整は学習することが目的であり学業成績が目的ではない。同一視的調整は学業成績が目的であり、学習はそれを達成するための手段としてある。内的調整は究極「面白くなけ」ればやめてしまう(内在化できてない目標を放棄する)傾向にあり、例え学習という行為が難しくても学業成績を目的にしているためある程度耐えられる傾向が考えられ、この差が学業成績に現れているとした。

ちなみに、論文内では内的調整が「最も自律性が高く教育的に望ましいとされている」が、自己決定理論[76]の論理自体にはそうした記述はない。OITは相対的自律性を軸として動機付けを定義しており、学業成績という外的因果に対応した序列ではない。1つの外的因果を軸としてOITの概念を用いた場合、必ずしも内的調整が好ましいとはならないのだ。ただ、内的調整に従って長期的に学習を進めた結果、学業成績にも影響を及ぼすようになる、みたいなのは全然ある。

メタ認知方略は内省と対策から成る。同一視的調整はこうした客観的な内省を目的達成のための有効な手段として捉え、長期的な使用を試みる。内的調整はその目的の性質上、長期的な使用に紐づくかは保証できない。

なお、取入れ的調整は短期的な学業成績を予測する。これは強迫観念からくる稼働を反映したものと考えられるが、長続きしないという先行研究と同様の結果が得られた。外的調整が学業成績と負の相関を持つのはいつものこと、暗記みたいな効果がありそうな学習に頼り、短期的には効果があるかもしれないが、長続きしない。

 

いまY字の動機付けモデルを考えている、内的と外的の2つの動機付け出発点があって、交わり、取入れと同一視を経て統合的調整に行きつく。相対的自律性を軸としているわけではなく、より現実的な動機付けの発展を反映したもの、興味のSDT的言語化ともいえる。この解像度を上げるには内発的動機付けと一緒くたにされてきたものの解像度を上げることにある。内発的動機付けの尺度を集計、因子の発現を言語化する。

 

 

参考文献

西村 多久磨, 河村 茂雄, 櫻井 茂男, 自律的な学習動機づけとメタ認知的方略が学業成績を予測するプロセス, 教育心理学研究, 2011, 59 巻, 1 号, p. 77-87, 公開日 2011/09/07, Online ISSN 2186-3075, Print ISSN 0021-5015, https://doi.org/10.5926/jjep.59.77, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjep/59/1/59_1_77/_article/-char/ja,