「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{143}Deniz Eseryel, Victor Law, et al. (2014)

ゲームベースラーニングと生徒の関与、問題解決能力との関連を実験したもの。要検証。暫定的に失敗例として配置する。

 

仮説群。1:ゲームプレイ中の興味の程度について、複雑な問題解決シナリオは生徒の関与に正の効果をもたらす。2:有能感充足が、同じく効果をもたらす。3:自律性充足が、同じく効果をもたらす。4:関係性充足は、同じく効果をもたらす。5:自己効力感は、同じく効果をもたらす。6:生徒の関与は事前の問題表現に左右される。

アメリカ中西部の農村部の高校を対象、n=88(女性n=50 平均14.7歳 SD=0.7)。参加者は少なくとも週2回ゲームをプレイ。MMOG「McLarin's Adventures」を使用、惑星探査を題材としたゲームであり、開拓を目標とする。動機付け評価は、興味・有能感・自律性・関係性を内発的動機付け目録[130]、自己効力感をBandura 2006より採用、自己申告で回答。

実施期間は1年。事前に複雑な問題解決のテストを受け、この時に注釈付き因果関係表現という形で回答を構築するよう要求(恐らく、問題表現と記述されるもの)、また自己申告の回答も得た。ゲームプレイは授業中に行われる。1年と1週間後、事後テストと事後の自己申告を得た。準実験スタイル。事前事後の差分を主な評価基準とする。関与基準はプレイ時間やタスク完了率で評価。

 

結果。変数間の0次相関。生徒の関与は興味・有能感と負の相関、自律性・関係性と有意なし、自己効力感と正の相関。

関与を従属変数とし、動機付け評価を独立変数としたときの回想的回帰分析の結果。興味の変化と生徒の関与は負の相関を示し、参加者はゲームプレイ中に興味が失われたにも関わらず関与が増えたことが示され、1:は棄却。また有能感も負の相関を示し、ゲームプレイ中に有能感が削がれたにもかかわらず関与が増えたことが示され、2:は棄却。自己効力感の変化はエンゲージメントを正に予測し、5:は支持された。自律性と関連性は有意な関係を示さなかったので、3:と4:は棄却される。

事前問題表現(生徒の回答)と生徒の関与は、事後の問題表現(生徒の回答)を予測、6:は支持される。

 

今回の実験手続きでは、自己効力感の知覚のみが生徒の関与を強く示した。また事前の問題表現が事後の問題表現に強く影響しているというのは、もともと強い子が単に良成績を獲得している可能性がある

自己効力感により関与が強化されるのは、少なくとも有能感充足の場面があったからと推測できるが、であれば真逆の値を返しているのはおかしい。

根源が類似項目な有能感と自己効力感が真逆の値を返しているのは面白い。対象が「効果的だ」と知覚することで満たされる有能感と、私はこれが達成できるという自身に対する効力期待の高低を示す自己効力感。なぜ真逆の値を返しているのか。指標の違いか?

ゲームベースラーニングではおなじみ、授業内でプレイ強要/課題による外的因果の構築。自律性欲求が満たされないのは当然。今回の手続きは個人戦だったため、設けられたコミュニティ要素が有用に扱われず、関係性充足が有意にならなかったと推測。

同条件にて、GAMS指標とBanduraの自己効力感指標を用いた縦断的分析をやってみたい。同条件の長期間付与がOIT的にどう変動していくかが気になる。

 



 

 

参考文献

Deniz Eseryel, Victor Law, Dirk Ifenthaler, Xun Ge1, & Raymond Miller. (2014). An Investigation of the Interrelationships between Motivation, Engagement, and Complex Problem Solving in Game-based Learning. Journal of Educational Technology & Society, 17(1), 42–53. http://www.jstor.org/stable/jeductechsoci.17.1.42