「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{140}Mansureh Kebritchi, Atsusi Hirumi, Haiyan Bai. (2010)

ゲームベースドラーニングによる比較的長期間の暴露がなにをもたらすのかを実験したもの。

 

仮説群。1:DimensionMを行った実験群の達成度と対照群との間に有意差はない。2:同じく、学習者の動機に有意差はない。3:同じく、予備知識やコンピューター経験などの交絡変数が有意であり、独立変数による有意差はない。←これ多分統計における生言語のようなもので、これを棄却することが統計の有意差を求めだす方法である。

Keller (1987)のARCSモデルを主に採用。注意・関連性・自信・満足度の4つの主要な属性に従い動機付けを測定する(直訳)。

DimensionMは数学教育ゲームであり、3Dグラフィック・学習者中心のアプローチと環境との相互作用による学習・マルチプレイ対応、などの特徴がある。

米国南東部の都市部高校の高校生193名対象、117名が実験群、76名が対照群。8月から翌年1月までの18週間実施。実験群は授業中に30分間DimensionMをプレイ、授業外でのプレイは封じられた。人口統計学的要素、ARCSモデルの動機付け指標、学力試験を用いて定量検査、介入開始時点と終了時点で2回計測。また実験後に非構造化面接を行った。

MANCOVA分析。

 

結果。1:について、達成度に有意差が見られたため棄却。実験期間中、実験群と対照群はどちらも数学の成績は伸びていたが、伸び率は実験群のほうが高かった。2:について、全体的に有意差はないがクラスとコンピュータ室両方でゲームプレイしていた群は意欲向上の傾向が見られたため、仮説は一部棄却された。3:について。個人差による影響は有意ではなかったため、仮説は棄却される

インタビューにおいては、コンピュータなどに慣れていない子が振り落とされることを懸念する声があったが、個人差による有意差はなく、杞憂である。また、教員・生徒ともにモチベーションに好影響であると主張した。

 

多分これさ、成績上がっているのはMayer(2003)とかのマルチメディアラーニングに則った効力で、意欲に有意差ないのはCETで語られている自律性欲求の阻害(特に、場所や期間の制限)で説明できるのでは? ゲームベースドラーニングが成績に効果的なのは視聴覚/言語非言語メッセージをまんべんなくふんだんに使っているから、という可能性がある。意欲向上が有意に見られたのが一番場所の制限が緩かったグループで、これはかの有名な貴重な失敗例[73]と一致する。

この場合、シリアスゲームやゲームベースドラーニングなど教育系のゲームが成績に影響を与えるとするというレビュー[139]と、ゲームの意欲的になれる部分を抽出したゲーミフィケーション(=非ゲーム的アプリ)の利用においては意欲向上が目立つとするレビュー[93]両方の一貫性を保てる。

或いは、ゲームベースドラーニング題材は教材自体は質のいいものだがこれを強制しているため意欲向上が見られない、みたいな実験手続きによる差なのかもしれない。

まぁゲームベースであれゲーミフィケーションであれ、結局課すことになる教育現場ではどちらも飼い殺し状態になっている可能性があるが[108]。

 

 

参考文献

Mansureh Kebritchi, Atsusi Hirumi, Haiyan Bai. The effects of modern mathematics computer games on mathematics achievement and class motivation. Computers & Education, Volume 55, Issue 2, 2010, Pages 427-443, ISSN 0360-1315, https://doi.org/10.1016/j.compedu.2010.02.007.