「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{108}Oga-Baldwin, W. (2015)

ゲーミフィケーションの理想と現実について主張するもの。

 

「ゲームっていいよな。やる人みんな内発的動機付け抱いてるし、人によってはめちゃめちゃプレイ継続するじゃん。この特性を抽出してさ、ゲーム以外でも使えないものか」

こうして始まったのがゲーミフィケーションの系譜。

従来の学習に抽出したゲーム要素を混ぜれば生徒の動機付けが向上し、長期的な学習成果につながる、と彼らは予測した。

 

長期的な学習成果と動機付けの相関は否定しない[49]。ただ、ゲーミフィケーションが動機付けの向上を真にもたらしているかが疑問である

ゲーミフィケーションの効力を調べた研究の大半は、短期的な導入による動機付け/エンゲージメントの差異に注目したものである[104][93]。学業成績の向上を取り上げた研究では、ゲーミフィケーションによる成果がかなり薄いことがしばしば挙がる。ゲーミフィケーションによる教育効果は"銀の弾丸"ではないことが示唆されている[8][4]。

確かに、抽出されたゲーム要素はゲームにおいては効力を発揮するだろう。しかし、ゲーム要素を導入しているのは教育現場であり、またなぜゲーム要素が効力を発揮するかの考察に欠けていることもある(教育を題材としたゲーミフィケーション研究の半数が理論的基盤を提示していないとする研究があったんだけど、Figが迷子)

CETに従えば、内発的動機付けの基盤には自律性、意思決定に関する権限に対する欲求の充足が挙げられる。ゲームはこれをごく初期の段階から提供している、自分の好みに合うゲームを選択できる自由という形で。一方、教育現場のゲーミフィケーションはこれを果たすことはない、それらは基本的に外発的動機付けであり、選択の余地がないことがしばしばである。教育現場におけるゲーミフィケーション潜在的に自律支援的ではなく、これがゲーミフィケーションによる効力を弱めている要因の1つと考えられている。

ゲームが楽しいのはゲーム要素によるものではなく、ゲーム要素として表出した心理的欲求の充足項目または他の動機付け要因によるものである(例えば、[2][105])。レベルアップ制度そのものが動機付けに関わっているのではなく、レベルによる努力量の可視化・レベルアップの基準が適切である・レベルアップによる報酬がプレイヤーにとって利であることなどが動機付けに関わっている。これを把握しておかなければ、単に外発的動機付けの項目を増やし、短期的な快楽を生じさせて終わりの報酬型ゲーミフィケーション[45]ばかりが溢れることになる、実際にあふれているが。

ちなみに、反転授業でも似たようなことが説かれている[12]。動機付けに効力をもたらしているのは授業形態ではなく、それを支える動機付け要因であると。

 

個人的な見解として、ゲームがなぜ楽しいかを動機付けの観点から解釈し、それをゲーミフィケーションという手法を以て言語化ゲーミフィケーションを参照に教育改善を図るのが一番効率的でないかと思う。バランス調整されていない報酬要素や短文のストーリーを導入するよりかは、どうすればより自律的な動機付け或いは動機付けレジリエンスが育つかをゲームを具体例として学び、それぞれの現場で生かすのが現実的ではと考えている。

少なくとも、ゲーミフィケーションを導入すれば動機付け爆上がりだ、なんて甘い考えで接さないように[73]。

 

 

参考文献

Oga-Baldwin, W. (2015). Supporting the Needs of Twenty-First Century Learners: A Self-Determination Theory Perspective. In: Koh, C. (eds) Motivation, Leadership and Curriculum design. Springer, Singapore.