「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{26}Martela, F., Ryan, R.M.(2016)

向社会行動が基本的心理的欲求理論に従い幸福につながるかを実験したもの。

 

大学生79名(女性64% 平均20.4歳)を対象、授業の単位と引き換えに参加した。最終的なサンプルは76人、34名が実験群、42名が対照群となった。

参加者は8人以下の小グループでコンピュータ室に招待され、遮蔽されたPCの前に座る。半分は実験群、半分は対照群に無作為に割り当てられた。与えられた単語から同義語を見つけるゲームfreerice.comを20分間プレイしたのち、ゲームプレイ中の経験についてアンケート、24回のストループ課題を行った。

実験群では「あなたが正解するたびに、このゲームは国連世界食糧計画に米10粒を寄付します」という指示と、ゲーム内バナーが表示された。またプレイヤーの行動がどれだけの人を救うかも強調された。対照群も同じゲームを行ったが、このような提示は一切省いた。

指標。課題後の幸福度評価にSPANE(Diener et al. 2010)、向社会的影響の評価にMartela and Ryan (2015)、心理的欲求充足にはChen et al. (2015)。ストループ課題は自我の枯渇の標準的な課題である。

 

結果。まず、介入操作は参加者の向社会的感覚を高めることに成功した、ゲームに対する興味と楽しさに差異は見られなかった。また、向社会的情報の暴露は同義語ゲームでの成績に影響を与えなかったが、その後のストループ課題において実験群が有意に高い成績を残した。freerice.comについて事前に知っていたとする人を除外してもこの傾向は維持されたが、p=.09、課題成績はp=.08である。

パスとしては、有能感と自律性の充足を介し幸福感につながるというパスが有意であった、関係性を介したパスは有意ではなく、向社会的行動から幸福感への直接的なパスも見られなかった。なお、実験群と対照群で明らかな差(p<.001)が見られたのは、向社会的影響と関係性充足である

実験結果より、向社会的行動または情報への暴露が心理的欲求の充足を介し幸福感につながることが示唆された。

また、利他的な行為はそれを上回る利益が得られるときにのみ表出するという言説に対し、角度の違う切り込みを入れた。コストが十分に低い場合、幸福感の獲得という報酬を目当てに利他的な行為を行う可能性が考えられる。

向社会的行為にもかかわらず、関係性の充足が幸福感への優位なパスにならないことは疑問である。論文内では3つの心理的欲求充足と幸福の成果を完全に媒介すると結論付けているが、サンプル数の少なさ・モデルの正確さ・指標の正確さなど、疑問が残る。変数ごとの差をまとめた表によれば、明らかに有意差が生じている項目は関係性充足だった、欲求間の媒介と相関関係をモデルに含めるべきか。

 

 

参考文献

Martela, F., Ryan, R.M. Prosocial behavior increases well-being and vitality even without contact with the beneficiary: Causal and behavioral evidence. Motiv Emot 40, 351–357 (2016). https://doi.org/10.1007/s11031-016-9552-z