「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{119}Deci, E. L., & Ryan, R. M. (2014).

職場を題材とした自己決定理論に関する研究への所感。

 

基本的な概念と表出は職場においても通用する心理的欲求の充足は職場満足度を上げ、より自律的な動機付けを予測し、意欲的・自律支援的な行為を促進し、離職率を下げ、感情的疲労を負に予測した。

Ryan, Bernstein, and Brown (2010)は基本的に平日は憂鬱で、土日は活発で、それらの関係が心理的欲求を介したものであることが分かり、結果的に、多くの職場が心理的欲求を阻害する構造であることが示唆された。

Baard et al. (2004)は、管理職からの自律支援の知覚に性差が生じていると報告、男性のほうが比較的強く知覚しているとした。ゲーミフィケーションの効果、ゲームによる欲求充足(特に有能感)の知覚においても同様な傾向が見られており、生じている理由は不明である。広範的にみられるのであれば、性差の所在、つまりそれが個人差として還元されるのか独立因子として還元されるのかを見極める必要が出てくる。

職場において人間は多様な外発的指標にさらされる、地位や名誉や報酬などである。基本的に、それらの外発的な産物に身を委ねる行為は幸福感低下や自律的動機付けの低下を予測する(Deci et al. 1999 など)。地位や名誉を欲したり、報酬第一に考える行為は基本的欲求ではなくその代替物として機能し、得ても充足はされず、空虚である。ただし、あくまでも身を委ねる行為が危険なだけであり、報酬そのものは悪ではない。報酬の存在が対象の因果を握るような暴露を避ければ、空虚の獲得を回避できる。報酬のための仕事という文脈で提供するのではなく、努力成果のフィードバックとして報酬を提供した場合、内発的動機付けを害さないことが判明している。なお、報酬は内発的動機付けが出ないような単調作業に対する短期的な動機としては、強力に働く{43}{83}{88}。

 

自律支援の傾向が強い人は、一般に良い人に見える。私たちの意思をむやみに否定せず、意思決定の理由に耳を傾け、アドバイスも理性の押し付けのようなものではない。「ありがとう」と「ごめんなさい」を的確かつ即座に返し、努力成果をしょっちゅう褒めてくれる、自発的行動であれば尚更褒めてくれる。協力を厭わず、その人もものは言うし、物言いも聴いてくれる。

…こうした人の下で働くとき、不快感を抱くほうが難しいように思える。

 

 

参考文献

Deci, E. L., & Ryan, R. M. (2014). The importance of universal psychological needs for understanding motivation in the workplace. In M. Gagné (Ed.), The Oxford handbook of work engagement, motivation, and self-determination theory (pp. 13–32). Oxford University Press.