「ゲーム心理学」知見保管庫

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{3}Yuan Yue Feng, Zihui Yi, et al. 2022

この論文は、協調型クラウドソーシングにおけるゲーミフィケーションの効果を探るべく、自己決定理論を基盤に説明・構築することを目的とする。

クラウドソーシングは競争型と協調型に分類できる。競争型は優秀者への報酬を動機付けとしてアイデアを募るのに対し、協調型は参加者が集団で問題解決することを奨励する。協調型はさらに投票型と創造型に分類することができ、前者は参加者に同質の質問で評価してもらうことで問題解決を行い、後者は参加者にある程度の権限を与え問題解決或いは知識の蓄積を図る。筆者は「競争型に関する考察は盛んだが、協調型に関する考察は量質共に劣る」と主張。これを理由に、協調型クラウドソーシングに導入されたゲーミフィケーションに注目、これの参加者の意欲の動向を調査するとした。

推論を基に以下の仮説を立てた。ゲーミフィケーションにおける選択肢の提示やレベルアップ要素などの没入的要素,帰属意識や承認欲求の解消などの社会的要素,実績や報酬などの目標要素は、自律性(Self-esteem),有能性(Competence enhancement),関連性(Sense of virtual community)の充足に影響し、協調型クラウドソーシングの参加に正の相関がある。また、実績や報酬などの目標要素は外発的動機付けとしても機能し、協調型クラウドソーシングの参加に負の相関を持つ。

方法として、ゲーミフィケーションが導入されたQ&Aサイト「Zhihu」利用者1000人を無作為抽出しアンケートを配布。無回答や無効回答を除いた386件の回答をサンプルとした。ゲーミフィケーションの項目はXi and Hamari (2019)から転用・修正したものを用いた。自律性の項目はDu et al.(2012)から、有能性の項目はYe and Kankanhalli.(2017)から、関連性の項目はKoh et al.(2007)から、外発的動機付けの項目はDeng and Joshi.(2016)から、協調型クラウドソーシングへの参加の項目はYang et al.(2020)から引用した。分析は部分的最小二乗回帰を用いた。

結果、ゲーミフィケーションの没入的要素,社会的要素,目標要素は自律性と有能性の充足を介し協調型クラウドソーシングの参加に正の影響をもたらすことが示された。また、目標要素は外発的動機付けの発生を介し協調型クラウドソーシングの参加に負の影響をもたらすことが示された。協調型クラウドソーシングの参加に関連性充足を介した影響は確認できなかった。

考察。協調型クラウドソーシングの参加は内発的動機付けの強さが問われる。ゆえに、内発的動機付けの軸となる自律性,有能性の充足が参加に正の影響をもたらす。また、報酬などの外発的動機付けは内発的動機付けを阻害するため、参加に負の影響をもたらす。関連性充足を介した影響が確認できなかった理由について、アプリに帰属意識に訴えるゲーム要素が見つからなかったこと、利用者にアプリが個人志向のものだと認知されていたため帰属意識の形成が困難だったことが挙げられる。

以上より、協調型クラウドソーシングにおけるゲーミフィケーションの利用は、特に自律性と有能性の充足をもたらす要素が効果的であることが示唆された。また、報酬などの目標要素は外発的動機付けとしても機能するため仕様に注意するべきとしている

本研究の限界として、横断的な調査だったこと、あくまでも協調型クラウドソーシングアプリにおける考察だということ、性格特性や因果性志向理論で問われる要素など他の変数の影響を考慮していないことが挙げられる。

 

引用文献

Yuan Yue Feng, Zihui Yi, Congcong Yang, Ruoyi Chenc, and Ye Feng. How do gamification mechanics drive solvers’ Knowledge contribution? A study of collaborative knowledge crowdsourcing.Technological Forecasting and Social Change Volume 177, April 2022, 121520