「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{91}二宮 理佳, ほか. (2012)

日本語の多読授業が対象の情動面にもたらす影響。

 

多読とは文字通り多く読むこと。「辞書は引かない」「わからないところは飛ばす」「進まなくなったらやめる」ことを三原則に、比較的やさしいものから読み進め、細かいことは気にせず文脈で内容を把握しながら、どんどん読み進めていくこと。

学習者の「出来た」と言う感覚に寄り添った語学学習。学習者にとって読み進めやすい適当な図書(ページの95%が理解できる)を読むことを指定、語彙が増えればそれに合わせて難しい内容のそれを選べるようになる、段階的な目標の設定を難なく行っている。読むことに目的を置くことで文法など細かい要素を無視し、文脈でその内容を捉え、読めている実感を知覚させる。辞書を引かないのは、対象の自力で読めているという実感の阻害、または辞書を引くことが読む行為の律速となることを避けるために。読みづらくなったら即やめることで、読めてない感覚を育てさせず、期待価値におけるコストの増加・自己決定における有能感の阻害を防ぐ。これを積み重ねることで着実に読めるようになっていく、あるいは予想以上にスラスラと読めることを知覚し、有能感を主とした充足をもたらす。

 

日本語中級クラスの履修者を対象、2つの大学、計n=18名に多読の授業を90分×10回組み込む。初回にチュートリアル、最終日にアンケートを行う。

結果としては、上記の主張を担保する意見が収集された。多読では速読を課してはないが、速く読めるようになったことを取り上げ、有能感の充足が起こっていることを主張する人が多かった。また、どの本をどれぐらい読むか、読み続けるかそれともやめるかは参加者に一存していたため、自律性の充足の傾向も見られた。また、多読の機会を授業内で設けたため、環境によるバフがかかっていたことも無視できない。

 

日本語の多読授業については知見がほぼない。理論上はかなり続く学習形態だが、実態はどうかはわからない。今後も積み重ねるべきだろう。

 

 

参考文献

二宮 理佳, 川上 麻理, 多読授業が情意面に及ぼす影響―動機づけの保持・促進に焦点をあてて―, 一橋大学国際教育センター紀要, 2012, 3巻, p. 53-65