「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{62}Jang, H., Reeve, J., & Deci, E. L. (2010)

教員が提供する自律支援と構造[Structure]は正の共分散(36%共有)の関係にあり、両方とも生徒の授業に対するエンゲージメントと正の相関を持っている。なお、エンゲージメントのクラス平均と構造には有意な相関がみられたが、個人のエンゲージメントと構造には有意な相関がみられなかった。

 

構造を構築するものは「明朗快活で詳細な指示」「継続的活動のための行動プログラムの提供」「フィードバックの提供」であり、SDTでいうところの有能感の充足を担う。自律支援を構築するものは「相対的自律性の向上」「非制御的な情報の利用」「生徒の視点と感情の容認」であり、SDTでいうところの自律性の充足を担う。清水(2019)を参照する限り、心理的欲求は有能感,関係性,自律性の順に高度化していき、最低でも有能感の充足があれば稼働はするが、継続的な稼働を目指すなら上位2つの欲求充足も必要となる。どちらか1つではなく、どっちも採用する。競合も干渉も発生しない。

論文では仮説として「行き過ぎた構造は逆に不利益である」、つまり自律支援と構造は曲線的な関係にあるとしていた。手取り足取り、すべての行動を支持するような状態は有害であるとしていた。実際は正の共分散を示していた。「これを受け、構造が有害になる場合とは、何らかの理由で自律性支援が損なわれている可能性があると推測」している。教員と生徒の関係から外れるが、個人的には『過保護』がこれを説明する一例だと考えている。過保護は行き過ぎた構造の特徴を捉えているように思える。ただ、過保護とされる対応が構造のそれとは思えない、あれは受ける側の欲求ではなく与える側の代替欲求に基づいて行われているから。

教員による2つの要素の提供は生徒個人のエンゲージメントの14%を予測した。生徒のエンゲージメントは知覚された能力・動機・信念などの個体差に揺さぶられることが示唆された。ただ教員によるサポートも無ではない。あとそろそろ教員の欲求充足の手法も真面目に考えないといけないよ。1990年代までは幼児と児童で、2010年代は生徒や大学生まで来ているから、そろそろ教員や会社員まで伸ばしてもいいんじゃない? あでも一般化の問題が残るのか。

 

 

参考文献

Jang, H., Reeve, J., & Deci, E. L. (2010). Engaging students in learning activities: It is not autonomy support or structure but autonomy support and structure. Journal of Educational Psychology, 102(3), 588–600.