「ゲーム心理学」知見保管庫

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{92}藤井 恭子, (2001)

青年期の友人関係における山アラシ・ジレンマを抽出する。

 

山アラシ・ジレンマとは二者関係における心理的距離に対する葛藤を指す。傷つくのが嫌だから、近づきすぎたくない。さみしい思いは嫌だから、離れすぎたくない。居心地のいい距離を測るために生じるジレンマであり、特に個の揺らぎや関係に対する未熟さを抱える青年期はこの傾向が目立つとされる。

葛藤は心理的距離が遠いと知覚することで増す。この時「相手を傷つけるのが嫌」といった対他的要因は有意な差はあれど基本的に高水準だが、「自分が傷つくのは嫌」という対自的要因は距離が増すごとに顕著に差が現れる。

葛藤は不適応的な対処の先行的要因である可能性があり、対処により心理的距離が遠ざかると知覚し、悪循環に陥る可能性がある。対処には主に、どこまで踏み込めばいいかわからずすくんでしまうという萎縮、繋がりを確かめるために相手を縛り付けるしがみつき、一度切れたら関係そのものを断ち切ろうとする見切り、が挙げられる。萎縮は相手を傷つけることの回避が、しがみつきは相手を傷つけることの回避と自分がさみしい思いをすることの回避が、見切りと自分が傷つくことの回避が、それぞれ有意な相関を示した。

 

俗に「ツンデレ」と称される表出はこのジレンマを以てきれいに説明できると思われる。傷つくのが嫌だから攻撃的な反応を返す、しかし寂しい思いは嫌だから積極的に主張する。もし攻撃的反応を理由に「ツンデレ」を突き放した場合、心的状態は悪化し、さらなる症状へ転化する可能性がある。

ツンデレ」は一種の防御反応である。そしてそう呼称されるほどに極端な表出でなくとも、ある程度普遍的に、青年期は特に抱えるジレンマである。

 

 

参考文献

藤井 恭子, 青年期の友人関係における山アラシ・ジレンマの分析, 教育心理学研究, 2001, 49 巻, 2 号, p. 146-155