「ゲーム心理学」知見保管庫

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{89}廣森 友人, (2014)

ダイナミックシステム理論の概論。

 

実践研究などでは動機付け理論に則った介入がトップダウン的に供給されており、実際の教室で発生している動機付けの問題と乖離が生じている可能性がある。また、動機付けの要因と表出の因果関係を特定するのは難しく、また動機付けの推移を計測した研究も少ない(縦断的分析が少ない)。

この問題への対処には、発達心理学で注目されているダイナミックシステム理論(DST: Smith & Thelen, 1993)の考え方が有効かもしれない。これは縦断的分析特化の理論体系であり、特定の基準に則った"変動"の詳細を回帰的に説明することを目的とする。従来の因果関係を測定する(つまり、原因と結果を予測する)ものではなく、変動の計測とその原因の特定に特化している。

基本的なアプローチは以下の通り。

①観察対象を特定する。教育環境であれば特定の科目の成績とか。

②縦断的分析をもって、観察対象の変動を可視化する。分析の結果、成績がある時期に上がった人と下がった人、また特に変動の無い人や、乱高下している人がいるかもしれない。

③変動が見られたポイントを特定し、変動の原因を探る。例えば成績の収集と同時に自己申告制の動機付け指標に回答してもらうとか。

④収集結果を踏まえて結論を出す。この人(グループ)の変動要因はこれかもしれない、と言語化する。

 

理論の利点として、個人差のような今まで説明できないものとして置かれていた分散の外にも注目できること、実際の変動から結論を導き出すので乖離が生じづらいこと、などが挙げられる。

 

気がかりな点として、縦断的分析前提というところがまず。実際の教育現場の問題に焦点を当てた方法らしいが、その分析を行う研究者側の実際は? なぜ縦断的分析が少ないのか。場違いかもしれないが、気になったので記録に残す。

因果関係の分析の手法ではないこと。なぜそれが生じているかを基本的には相関で示すのだろう。

構造上、複数の理論または尺度を引用する必要がある。これは近年の研究で求められていることでもあるから構わないか{78}。結果の変動に採用する尺度が大きく関わっているのはいつものことか、自明だが慎重になるべき。

この手法で得られた結果は、範囲がかなり限定され、一般化も難しい。特定の教室の、言語化できてない変数を多分に含んだ変動を対象としているため。探索研究としては無類の強さを誇るかもしれないが。ここで得られた結果をもとに、介入方法をかいりょうしてみる、とか。

他にもどこか、理論と実際の乖離のようなものが潜んでいるかもしれないが、言語化できないので切り上げ。

 

 

参考文献

廣森 友人, ダイナミックシステム理論に基づいた新しい動機づけ研究の可能性, The Language Teacher, 2014, 38巻, pp.15-18