「ゲーム心理学」知見保管庫

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{84}原田 勇希, 坂本 一真, 鈴木 誠, (2017)

中学生がなぜ、そしていつから理科が嫌いになるかを、期待×価値理論の観点から。

 

質問票による調査を1つの中学校n=630に試行。横断的分析。好き嫌いと、統制感と興味価値を測る。

 

結果。基本的に学年が上がるごとに理科が嫌いになる傾向が見られた。特に女子はその傾向が強く、1年生・2年生・3年生のスコアに明確な差が見られた。

嫌いになる理由について、「理科の内容は面白い」とする興味価値と「理科の勉強ができる」とする統制感(制御の感覚)はそれぞれ有意な関係を持ち、2年生と3年生においては分散の70%を説明した。また、3年生における興味価値と統制感の相関はr=.75であり、「理科の勉強ができる」から「理科の内容が面白い」というパスが考えられる。
分野ごとに統制感と興味価値が占める分散の割合は異なる。

全体を通して、物理分野に対する統制感は低く、生物分野に対する統制感と興味価値は高い傾向にある。

 

「理科の勉強ができる」から「理科の内容が面白い」というパスは、CETの特に有能感の充足に通じるところがある。

経過による嫌いの増加について。どこかで「出来ない」事実あるいは信念が確立されると、それを解消する手立てを行わない限り「面白くない」という知覚が残り、そのどちらもが動機付けを損なうと推測。因果志向理論の、有能感の阻害による被統制的志向の確立に近いお話だ。

この研究は横断的分析であり、個人の1〜3年生の好き嫌いの変動を縦断的に分析したものではない。また、好き嫌いがどの程度成績に影響するか、また他の動機付け理論の指標との関連性も問われていない。理科の好き嫌いの変動が分野によるものなのか、それとも学年の経過によるものなのかは、これだけでは不明瞭である。

 

 

参考文献

原田 勇希, 坂本 一真, 鈴木 誠, いつ, なぜ, 中学生は理科を好きでなくなるのか?, 理科教育学研究, 2017, 58 巻, 3 号, p. 319-330,