「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{60}Matthias Brand et al. (2016)

I-PACEモデル。特定のインターネット利用障害に関するモデルの改訂版。

素因変数ー情動・認知ー実行・抑制ー結果の4段階で考える。

根幹の原因として、遺伝要因や虐待等の経験、うつ病などの精神疾患、個人の嗜好が挙げられる。初期はネット利用による短絡的な肯定的経験、楽しいや面白いといった経験を獲得するにとどまる。この肯定的経験が、根幹の原因から生じる不快感やストレスの解消、苦悶な日常からの逃避に役立つ、代替欲求として機能すると認知(誤解)することで、対象にネット利用の誤った信念が形成される。利用すれば悩みが解消される、だからもっと利用するようになる。次第に特定刺激に対する注意が先鋭化し、刺激への対応に歯止めが利かなくなる。やがて、肯定的経験を得るための利用から、苦痛からの逃避のための利用へと移行していき、利用に強迫的になる。そしてネット利用に大半のリソースを割くようになるため、心身や社会的側面に影響が出始める。

論文内でも言及されているが、根幹の構造は他の依存や物質主義なんかと近い。だから対処法は薬学的対処と心理学的対処の併用が望ましいとされているが、知見が足りないため有効打がはっきりしない。

また、知見の偏りも問題として挙げられる。知見はIGD関連のものが多く、年齢は若年層、性別は男性のものが多い。また横断的分析が大半であり、パス分析や因果関係などの調査は少ない。

ゆえに、このモデルも決定的なものではなく、改良の余地がある。

 

不適応的な理由で利用する人は、このモデルを参照する限り「なるべく長く現実から目をそらしたい」はず。であれば、ストーリーの理解や解釈に時間とリソースを割く必要があるRPGなどが選ばれると推測される。この場合、素因はRPGを選ぶ理由の1つとして挙がるが、RPGを選ぶ人が素因を抱えているとはならない。

 

 

参考文献

Matthias Brand, Kimberly S. Young, Christian Laier, Klaus Wölfling, and Marc N. Potenza. Integrating psychological and neurobiological considerations regarding the development and maintenance of specific Internet-use disorders: An Interaction of Person-Affect-Cognition-Execution (I-PACE) model. Neuroscience & Biobehavioral Reviews Volume 71, December 2016, Pages 252-266