「ゲーム心理学」知見保管庫

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{32}要約:Furrer, C., & Skinner, E. 2003

本研究は、先行研究の知見を踏まえ、主に教師・親・親友との関係が前思春期の子供の学習意欲と成績に及ぼす影響について調査したものである。

自己決定理論をはじめとして、関連性という心理的欲求は多くの理論的観点から説明されている。そして自己決定理論のように、他者とつながりたいという所属の欲求を、基本的な欲求として位置付ける動機付けモデルが複数存在する。私たちは他人に拠り所としての機能を求めており、それが充足された時、より強い動機付けが成るというのだ。

本研究では、関連性の充足が学校への関与を媒介にして学習成績を向上させる、という仮定のもと調査を行う。先行研究より、対象とする関係を教師・親・親友に設定した。また、性別・年齢による関連性の充足や影響も考慮した。

仮説。1)子供の学校への関与の度合いは関連性と学業成績を媒介する。2)関連性は子供の学校への関与に対する独立変数として機能する。3)関連性は子供の動機付けの時間的変化を予測する。4)教師・親・親友は子供の関連性充足にそれぞれ独立した効果を示す。5)女子の学校への関与は関連性の効果に対してより鋭敏である。6)年長児に比べて年少児は関連性の効果により顕著に表れる。7)教師・親・親友に対する冷めた関係が増えるごとに学校への関与が減少する。8)同数だけ冷めた関係をもつ群を比較した時、どの関係が冷めているかによって効果はさほど変わらない。9)教師から関連性を十分に充足できている群は、例え親と冷めた関係であっても、3者から充分に充足できている群と関与に違いはない。10)教師と冷めた関係を持つ群は、例え他2者から充分に充足できていたとしても、3者から充分に充足できている群に対し学校への関与に劣る。11)教師・親から充分に充足できていた場合、例え同級生と冷めた関係を持っていたとしても、3者から充分に充足できている群と関与に違いはない。

方法。3年生から6年生までの子供を対象、ほとんどが中流階級と労働者階級からなる。訓練を受けたインタビュアーが実施する自己申告式の質問票を用いて、45分間のセッションを3回行った。アンケートは秋(10月)から春(5月)、そして2年目の秋(10月)にかけて行われた。最終的なサンプルは、3回のアンケートをすべてこなした子供n=948となった。子供は3者との関係、学校領域における有能感の認識、学校への関与について報告した。教師は各子供の(教師目線の)学校への関与について報告した。学校への関与は行動的な尺度と感情的な尺度にてそれぞれ計られた。成績は、言語能力と数学の成績に焦点をあてた点数を用いた。すべての分析はSPSS 10.0を用いて行った。

結果。1)について、教師による子供の学校への関与の報告、子供自身の学校への関与の報告、ともに関連性と学業成績の関係を媒介した。2)について、仮説は支持された。3)について、仮説は支持された。4)について、異なる関係に対する関連性の相関が中程度であることから、3者の関係はそれぞれ独立した効果を持ち、単なる代替として機能することはないことが示唆された。5)について、仮説は支持されなかった。6)について、仮説は支持されなかった。7)について、仮説は支持されたが、2者と冷めた関係を持つ子供と1者と冷めた関係を持つ子供とでは、教師による関与の評価に差は生まれなかった。8)について、部分的に支持された。具体的に、教師と冷めた関係を持つ子供は親と冷めた関係を持つ子供よりも感情的関与が低いと報告された。9)について、教師による報告では親と冷めた関係を持つ子供は3者から充分に充足できている群に差はなかったが、子供の関与についての自己報告は有意に低かった。10)について、仮説は支持された。11)について、教師による報告では仮説通りだったが、自己報告による関与は有意に低かった。

以上の結果は、関連性の充足が学校への関与を媒介にして学業成績を向上させるという主張を支持するものである。また、関連性の効果は独立しており、時間経過による学習意欲の向上をも予測した(学習意欲に対する長期的な効果を示した)。3者との関係はその効果がある程度重複しているが、単に関連性に対する代替項目として機能するわけではなく、それぞれ独立した効果を持つ。また、冷めた関係が増えるごとに、つまり関連性の充足が低くなるごとに、学校への関与が弱くなることも示された。

関連性が充分に充足された子供は学校に対し否定的な感情が少ないため積極的な関与を行う機会が多くなり、結果的に学業的成功をおさめやすくなる。逆に関連性の充足が低い子供は学校に対し否定的な感情を抱きやすく、関与の機会が少なくなり、学業的成功が妨げられる。

限界事項として、今回のサンプルは全体的に関連性充足が高い状態だったことが挙げられる。

 

 

参考文献

Furrer, C., & Skinner, E. (2003). Sense of relatedness as a factor in children's academic engagement and performance. Journal of Educational Psychology, 95(1), 148–162.