「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{28}要約:Devin J.Mills and Johnie J.Allen. 2020

本研究は、インターネットゲーム障害(IGD)の重症度と自制心の低さとの関係を探るものである。

先行研究により、自己決定理論における心理的欲求のフラストレーションもしくは妨害がIGDの重症度と関連することが明らかになっている。また、自制心の低さが取入れ的調整などの外発的動機付けと関連し、そうした外発的動機付けがIGDの重症度と関連しているという知見もある。これらから、自制心の低さが外発的動機付けを媒介にしてIGD重症度に関連しているのではと推測した。補足として、SDTの有機体統合理論における外発的動機付けは自律性充足が相対的に低い動機付けとして扱われている。

また、日常生活においてフラストレーションが溜まっている、かつ、ビデオゲームにて一定以上の欲求充足が成されている時、ゲームを代替欲求として利用するとも予想した。ここで言う代替欲求とは、心理的欲求が正常に充足されない時に、物品などの代替物によりそれを充足しようと試みること、またその行為を指し、依存症が参考例となる。

自制心については「生来の衝動や衝動的な行動を抑制するために行動・思考・感情を効果的に管理する能力」と定義する。以前の研究において、より適応的な親と仲間の関係が青少年の自制心と関連することを見出している。

仮説:日常における欲求不満が自制心に悪影響を及ぼし、ビデオゲームに対し不適応的な動機付けを獲得、IGDの重症度を高める。

方法。特定の大学の学部生を対象にアンケートを実施。18歳以上であること、ビデオゲームをしていること、を回答条件とした。最終的なサンプルは487人となった。心理的欲求は基本的心理欲求の満足と欲求不満尺度(BPNSF)を、ゲーム習慣は一般メディア習慣調査票(GMHQ)を、ビデオゲームへの動機付けは18項目のゲーム動機付け尺度を、IGD重症度はインターネットゲーム障害尺度を、自制心は36項目の自制心尺度を、それぞれ用いて測定した。各尺度の測定モデルを個別に検定・修正、測定モデル内の潜在変数間の相関と観測変数間の相関を調べ、仮説検証のために一連の標準誤差が指定された。

結果。IGDの重症度は欲求不満は正の相関を、欲求充足・自制心と負の相関を示した。IGDは取入れ的調整・非意欲と正の相関を示した。自制心は取入れ的調整・非意欲と負の相関を示した。自制心は欲求充足と正の相関を、欲求不満と負の相関を示した。欲求充足と欲求不満が自制心を予測し、自制心がビデオゲームへの動機付けを予測し、動機付けがIGDを予測するという系列媒介モデルは、これらのデータに適合した。

以上の結果は、日々の欲求不満が自制心の低下を引き起こし、それが取入れ的調整などのビデオゲームへの不適応的な動機付けを作り、結果的にIGDを重症化するという一連の関連を支持するものである。また、取入れ的調整・非意欲はIGDの重症化と関連したが、週当たりのゲームプレイ時間とは関係しなかった。これは、ビデオゲームへの適応的な動機付けが週当たりのプレイ時間に寄与し、不適応的な動機付けがIGDに寄与していることを示唆する。欲求不足とビデオゲームへの動機付けの正の相関は、代替欲求としてのゲームの利用を反映している可能性がある。

限界事項として、自己申告制のアンケートを用いたこと、横断的デザインのため因果関係の推定に限界があること、特定の大学のサンプルを用いているため一般化に注意する必要があること、が挙げられる。

 

 

参考文献

Devin J.Mills and Johnie J.Allen. Self-determination theory, internet gaming disorder, and the mediating role of self-control. Computers in Human Behavior Volume 105, April 2020, 106209