「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{201}Thomas K. F. Chiu 2022

オンライン授業における心理的欲求充足がエンゲージメントにつながるかを調査したもの。

 

SDT基軸とは言うが、記載された図と「生徒の動機づけは文脈により左右される」ことの強調からおそらくSSMMDが主題。

実験が行われたのは2020年のパンデミック真っ只中。オンライン授業を受けざるを得ない環境下での調査である。

香港の学生6校1201名(平均14.1歳 女性52%)が参加。2月下旬に生徒にテスト前の自己申告式質問票、3月第1週に学校所属の数学教師に5回×3時間のオンライントレーニングワークショップを行い、その後教師はオンライン授業を提供、5月中旬に事後アンケートを受けた。

欲求充足はStandage et al. (2005)を参照。行動的関与と感情的関与はSkinner et al. (2009)、認知的関与はWang et al. (2016)、自律的関与はReeve (2013)を参照。

 

結果。内部信頼性は担保。すべての変数はαが.90以上。

今回提供したデジタル支援戦略(オンライントレーニングワークショップ)はオンライン授業による欲求充足を有意に予測した。戦略の詳細として、学習のための様々なリソースと媒体を用い時間の猶予を持たせたこと、認知負荷の軽減を目的としたよくできたデザインの教材、感情を無下にしない接し方によるリアルタイムレッスン、が主に上げられる。これらの戦略により欲求充足を計ることで、関与を伸ばせる。

関係は以下。

まず、自律性充足はどの関与とも強くかかわらない。

有能感充足は認知的関与と強く関係。これは[196]でも言及されている、何よりもまずシステムの扱いやすさが学習関与に強くかかわるのだろう。

関係性充足は行動的・感情的・自律的関与に強く関係した。感情的は[196]でも同様だが、しかし自律的関与までも、[195]とはちょっと違う結果となる。これは実施当時がパンデミックによる封鎖を受けていたことと、文化的要因が考えられる。なによりも社会的距離が広くなったため、関係性において欲求不満になりやすく、その解消が有効であることの示唆ともとれる。またオンライン授業という非言語的接触のほとんどが断たれる環境がより欲求を高めるとも考えられる。あとは個人主義集団主義の違いにより、満たされるものは同じだが表現方法などが異なるため本来自律性と識別されるものが関係性に行っている可能性も捨てきれない。

 

[197]でも示されたが、こと長期的な学習への関与や動機づけとなると、生徒の感情を無視することはできそうにない。

 

 

参考文献

Thomas K. F. Chiu (2022) Applying the self-determination theory (SDT) to explain student engagement in online learning during the COVID-19 pandemic, Journal of Research on Technology in Education, 54:sup1, S14-S30, DOI: 10.1080/15391523.2021.1891998