「ゲーム心理学」知見保管庫

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{30}要約:Thomas K.F.Chiu. 2021

本研究は、SDTで言及された心理的欲求を支援するための一連の技術的学習環境デザインを提案、この案が教員によるサポートよりも学生のブレンデッドラーニングへの関与を高めるかどうかを検証するものである。

学生の学習への関与は多次元的な概念であると考えられており、一般に、学習活動への参加を指す行動的関与、学習活動などに対する感情的反応を指す感情的関与、学習活動に対する認知戦略の選択を指す認知的関与、学習活動への積極的な関与を目指すことを指す主体的関与、が挙げられる。内発的動機付けはこれらの関与をより洗練された方向へ促進させる。内発的動機付けのための心理的欲求の充足について、教師によるそれは探求されているが、今回のような技術的支援についての検討は(この論文が執筆された時点では)少ない。

リサーチクエスチョン。1)提案した技術的支援は教師による支援と比較して心理的欲求をより充足し、関与を促すか。2)教師による支援と技術的支援は、生徒の4つの関与のどれをより強く予測するか。3)提案した技術的支援のどの機能が生徒の関与に影響を与えているのか。

仮説。1]技術的支援を受けた学生は、比較したときより多くの充足を感じ、より大きな関与を報告する。2]教師によるサポートは、生徒の関与に有意な正の効果をもたらす。3]技術的支援は、生徒の関与に有意な正の効果をもたらす。

方法。準実験デザインを採用。学力水準がほぼ同じの香港の高校4校から選ばれた、11年生の生徒426人と教師4名を対象。対象を実験群と統制群にランダムに分け、統制群には技術的支援が導入されていないLMSを提供した。対象は10日間の実験期間中、数学の科目を学習した。教師及び技術的支援の効果と関与への影響を調べるために自己申告式の質問票を用いた。また、定量的データで説明できない現象を説明するために、半構造化面接を行った。本調査の2か月前にパイロット調査を行った結果、実験群のほうがより強い欲求支援を知覚し、より大きな関与を示した。

技術的支援の詳細。自律性:同じ学習単元に対し、ビデオ・テキスト・スライドなどの多様な様式の教材を提供する。有能性:レベルアップ要素の提供。関連性:LMSのデザインとコミュニケーションに個人的・感情的デザインを導入(スキンなど)。

結果。実験群は統制群に比べ、LMSから心理的欲求の支援を認知、有意に大きな充足を報告した。教師からの心理的欲求の支援について、群間に差はなかった。また、実験群は投資群に比べ、行動的関与、認知的関与、主体的関与が有意に大きいことが分かった。パス分析の結果、技術的支援のうち、自律性支援機能は行動的・認知的・主体的関与を有意に予測した。また、教員による支援は生徒の4つの関与を有意に予測した。

議論。提案した技術的支援が学生の心理的欲求を充足し、生徒の学習への関与を強くした。また、技術的支援のうち自律性支援機能がより大きな効力を発揮することも確認できた。「これは、技術的支援を導入したLMSが、時間・場所・教材様式も含めた生徒の意志決定を阻害しないことに由来するものと思われる」。そして、技術的支援と教師による支援とでは支援できる心理的欲求に相違点があり、ブレンデッドラーニングの重要性が示唆された。

限界事項として、高等教育機関所属の学生を対象とした準実験デザインであること、10日間という短期間な実験期間であること、自己申告式の質問票を用いたことなどが挙げられる。

 

 

参考文献

Thomas K.F.Chiu. Digital support for student engagement in blended learning based on self-determination theory. Computers in Human Behavior Volume 124, November 2021, 106909