「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{23}Schrader, C. (2023).

シリアスゲームとゲームベースラーニングへの所感。各ゲーム要素に関する見解も述べている。

 

ゲームの動機付け・認知・感情に与える影響は一様ではないことが、これまでの研究が示唆している。Mayer(2020)によれば、ゲームは学習者の動機付けを促進する可能性があるが、それ自体が動機づけとして成り立ってしまうようなゲーム要素が余計な処理を発生させている可能性がある。目的がポイント・バッジ・リーダーボードの獲得へとすり替わってしまい、本来果たされるべきである学習目標がおざなりになってしまう。と、マルチメディア理論と認知負荷理論(Sweller, Ayres, Kalyuga 2011)を用いて説明している。

Ricardo Rosas, et al. (2003)など、一部では遊びながら暗黙的に習得している事例もある。対象は遊びに集中しているが、遊びを円滑に行うためにスキルを習得していくといった道筋。この事例を再現したいのであれば、学習課題と用いるゲーム要素のすり合わせ、つまり用いるゲーム要素の吟味と調整、そしてゲームとしての完成度が求められる。前例はあくまでも遊びとして提供した。でなければElisa D. Mekler et al.(2017)のような残念な結果が待っている。

 

競争の環境は動機づけの強い要因として挙げられるが、連続した敗北や個人要因など状況によって効力が異なり、1部の意欲を削ぐ可能性がある(Riemer & Schrader 2020)。相性が良く、リーダーボードのてっぺんを目指そうとする人もいるが(Abu-Dawood 2016)、教育機関でこれを採用するのは懸念点が多い。

難易度の調整項目に関してはおおむね正の効果が得られているが、増し続ける熟練度への対応をどうするかで困っているらしい(Schrader & Nett 2018)。

グラフィックとサウンドについては、意欲と楽しさに対しては正の効果をもたらしているが、仮想学習環境における生徒の記憶定着率に関しては様々な結果がある(Fassbender,Richards, Bilgin, Thompson, & Heiden, 2012)という。グラフィックはその加減を調整しなければ、Mayer(2020)が主張したような混乱を招きかねない。

フィードバック自体はCET定義の心理的欲求充足のための重要なファクターだが、そのために、その質量は対象の動機づけを左右する。過剰な表示やサポート、ポイント獲得の強調は自律性の阻害を招く可能性がある、指示に従っている・獲得に奔走するなどの外的因果に身をゆだねることにつながるからである (Vrugte & de Jong, 2011)。どういった情報を伝えるかの吟味が必要になる、例えば成功や失敗を示すだけでなく、課題進捗を知らせるなどである(Rigby and Ryan 2011)。

 

どういったゲームデザインが学習に有効か、その効力の詳細はいまだ存在しないとしている。今後は、ゲーム要素の効力と、その効力がどういった文脈で最大化されるかを明らかにする必要がある。特に、教育現場など強い統制環境における効力の変化や原因は探るべきだろう。

 

 

参考文献

Schrader, C. (2023). Serious Games and Game-Based Learning. In: Zawacki-Richter, O., Jung, I. (eds) Handbook of Open, Distance and Digital Education. Springer, Singapore. https://doi-org.libproxy.ouj.ac.jp/10.1007/978-981-19-2080-6_74