「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{128}白石 よしえ, (2012)

予備校生に対する内発的動機付けの喚起に関する所感。

 

予備校生は心理的にかなり追い込まれている状態にあると推測。大学受験に落ちたという事実からくる負の負担。1年間で膨大な課題を捌くとともに、大学受験という競争に再び挑む外的因果への身の委ね。大学進学率50%の原因となり結果にもなった大学進学への社会的圧力。SDTの観点からも好ましい環境とは言えず、理論上、学習への動機付けが揺らぎやすく崩れやすいとされる。

記事の筆者はこの心的状態の改善のために自律性支援による内的調整の喚起を提案した。正確には、反転理論(Apter, 2001)という動機付けの転換点に注目した理論体系に則り、手段的行動から目的的行動に転換させるきっかけとして「笑え」る授業への暴露を提案した。手段的行動に支配されている時は失敗への不安から学習動機を蝕んでいくが、目的的行動に支配された時は興奮を知覚するようになるという。動機付けの内容が知覚される支援に影響を与えるのはSDTでも主張されている[63]。そして、手段的行動よりも目的的行動のほうが学業的に有意であると主張し、これは同一化的調整・内的調整の群が学業成績において優位であるとしたSDTの研究と一致する[127]。

「笑え」る授業の詳細は記事内で語られていないが、記事内インタビューを読む限り、授業内容に関連した小ネタや雑談が該当すると思われる。それ自体が面白く、かつ授業内容への理解をさらに深めるような話題への暴露。ただし、小ネタや雑談を提供し実際に笑い声が聞こえてくるかは、その授業が笑い声を許容できる雰囲気なのか[126]にも影響されると思う。

 

 

参考文献

白石 よしえ, なぜ、予備校の教室には「笑い」が必要か : 笑いが予備校での学習に効果をもたらすメカニズムを動機づけスタイル理論:反転理論から考える, 笑い学研究, 2012, 19 巻, p. 128-140, 公開日 2017/07/21, Online ISSN 2423-9054, Print ISSN 2189-4132, https://doi.org/10.18991/warai.19.0_128, https://www.jstage.jst.go.jp/article/warai/19/0/19_KJ00008157777/_article/-char/ja,