「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{73}Dennis Charsky, and William Ressler. (2011)

「ゲームは人を意欲的にする!」と調子に乗ってうっきうきで授業に採用した結果大爆死した、非常に貴重な研究。

 

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世界史の授業の代替としてCivⅢを使用。

測定方法はKeller (1987)のIMMS。動機付けのARCSモデルに則ったもの。

米国コロラド州の公立高校所属を対象。1群28名、2群25名、対照群29名で構成。群間に成績差はなく、従来の指導に対する動機付けも差はなし。

授業目的としてCivⅢのコンセプトマップ(単語間の関係を可視化することで概念学習の手助けとなるもの)の作製を掲げた。1群は研究者が事前に作成したマップを提供され、これに沿った内容をゲームから見つけるように指示された。2群はプレイとともに自分自身のコンセプトマップの構築を指示された。対照群はコンセプトマップに関するものは課されず自由にプレイした。

CivⅢを2週間ほどプレイ。生徒はプレイ後に理解度に関するテストがあることを告げられた。授業外でゲームをしないこと、ゲームのヒントや戦略を求めないこと、授業活動について他の人と話し合ってはいけないこと。

 

これで意欲意欲あがる方が不思議だわ。見事にSDT定義の心理的欲求の阻害を発生させ、ゲームプレイの動機を外的に位置させている。

授業という形でCivⅢのプレイを強制させている、自律性阻害。コンセプトマップの作成を課すことで、行動と目的の分離を発生させている(外的因果の発生)、相対的自律性の低下。またコンセプトマップの作成が課されたことでプレイスタイルの制限が発生する、自分に合ったプレイスタイルが選択できない、自律性と有能感の阻害。授業外でのゲーム禁止、効力の正確な測定のための制限だと思われるが、これも生徒の行動を束縛するため、自律性阻害。ゲームのヒントや戦略を求めないこと、プレイによる学習をプレイにおける困難さが解消しないことで制限している、有能感阻害。授業活動について他の人と話し合ってはいけないこと、実験の統制のための制限だと思われるが、学習の共有を阻み協力と相互作用を阻むため、関係性阻害。

もうこれ逆に知ってるだろSDT。SDTのCETとかでやっちゃいけないことをほぼ全部やってる。このメゾットを構築して「あれれ~意欲逆に下がっちゃてるぞ~」は確信犯でしょ。結果は1・2群は実験前と比較して有意にモチベが減退し、対照群はモチベが上がった。だろうな、対照群は何の縛りもないからのびのびとできただろうよ。

これを行った研究者は議論項目にて「時間が足りな過ぎた」「実験構造がゲームの最も有利な点である選択の余地を奪ったかもしれん」「コンセプトマップの構築に重きを置きすぎた」と語っている。あと研究者の1人が著した論文のアブスト何本が読んだけど、SDTの気配はどこにもなかった。

 

私はSDTを動機付け測定指標と理論に据え、ゲームの(従来の授業のような)強制は参加者の意欲を有意に減退させることを仮説に実験しようと今いろいろ資料集めてるけど、なんというか、思わぬ形で先行研究が入手できた。明日はこれを引用した論文で実験系を探ってみる。

こんな実験があるからゲーミフィケーションのメタ分析で「大半は理論的根拠を示していない」なんていわれるんだよ。

 

 

参考文献

Dennis Charsky, and William Ressler. “Games are made for fun”: Lessons on the effects of concept maps in the classroom use of computer games. Computers & Education Volume 56, Issue 3, April 2011, Pages 604-615