「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{78}鹿毛 雅治 (2017)

ここ10年の日本の動機付け研究の傾向をレビューしたもの。

 

数が多いため、鹿毛(2013)の四要因三水準モデル(動機付けを3つのレベルにおいて展開し、4つの要因の相互作用により創発されるものとして扱う)を参考に分類した。

 

日本の動機付け研究の傾向は、国際的な潮流とほぼ同じである。

Linnenbrick-Garcia &Patall (2016)はエンゲージメント、進行中の活動において示される行動・感情等の総合的な心理現象(Fredricks, Blumenfeld, & Paris, 2004)(つまり、動機付けの総合的見解)の理解のためには、理論統合を進めていく必要があるとしている。

日本の動機付け研究は、複数の動機付け変数を扱った研究はすでに相当行われているが、動機付けの個人差を1つの変数として取り扱う研究はこれからといったところ。教育的な介入研究については数が少ないものの、面白い成果を残している。

 

日本の動機付け研究における課題。

理論の創発同一化的調整がメタ認知方略の使用を介し学業成績を予測したこと(西村・河村・櫻井 2011)など、既存の理論では説明しきれないことが増えてきている。ゆえに、理論の統合や新しい理論の作成が求められている。複数の理論を用いた研究や考察はこういうところでも効いてくる。

方法論的なツッコミ。本論文でレビューした研究の7割が調査法(質問紙法)によるもの。「自分を善く見せようとするバイアスが結果をゆがめている可能性」はもはやお決まり文句、決して良いとは言えない状況。実験・面接・観察などのアプローチを増やしていくべき。

教育観の抜本的な見直し。旧来型の授業がボロクソに言われ(波多野・稲垣 1973あたりからずっとボロクソ言ってた気がするけど)、その見直しが始まっている中で、旧来型の授業を題材とした研究はもう古いのかもしれない。OECDのEducation 2030で問われているような、主体的な学習態度を基盤とした授業モデルを想定した研究を推進する必要がある。

 

ふわっとした感想を。

細かい分類は存在するだろうが、動機付けの観点から観た大雑把な(実用面を重視した)「良い授業」「良い接し方」は収束する傾向にあると思う。達成目標と自己決定の相関とか、方略使用と自己決定とか、目標内容・因果志向と信念とか、方略的楽観主義とか、大体似たようなことを言っている気がする。

関係性動機付け理論かな。自律支援する側とされる側の相互作用を一本のリング状の理論にまとめるのは、理論統合の面から見ても、介入等の実用的な面から見ても有効だと思う。

あと"主体的な学習態度"は『義務』教育に限り完全には解決しないと思う。十全に取り組めるのは高校以降。でも今は大学も学校化しているしな。

今回の論文を読む限り、日本が達成目標理論を扱うときは3つの方を用いることが多いぽい?

 

 

参考文献

鹿毛 雅治, 学習動機づけ研究の動向と展望, 教育心理学年報, 2017, 57 巻, p. 155-170, 公開日 2018/09/14, Online ISSN 2186-3091, Print ISSN 0452-9650, https://doi.org/10.5926/arepj.57.155, https://www.jstage.jst.go.jp/article/arepj/57/0/57_155/_article/-char/ja,