「ゲーム心理学」知見保管庫

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{64}Deci and Ryan (2002) 【旧】

自己決定理論とは、人間の能動的で統合的という生得的な性質と、生得的な性質を促したり妨げたりする環境変数との間の相互作用を主な議題とする、弁証法的な理論体系である。

 

自己決定理論は3つの基本的な心理的欲求を定めている。この心理的欲求は生得的なものと置き、欲求充足は健全な発達に不可欠としている。その証明として生物学的な弁証も試みられている。

自律性は自身に関する意思決定権の掌握に対する欲求である。自身が成すことへの一定以上の意思決定を、また意思決定のための情報を要求する。補足として、自律性と依存性は必ずしも対立するものではない。考慮ののち「この人に身を委ねる」ことを意思決定した場合、対象の自律性は充足されているとみなす。

有能性は自己効力感と類似の概念であり、効力期待に対する欲求である。対象の能力や成果が直接反映されるのではなく、対象が「効果的だ」と知覚できる成果が要求される。

関連性は生物の統合的傾向の1つであり、帰属意識に対する欲求である。物理的な所属や交流ではなく、存在の承認のようなより概念的な所属が要求される。

 

自己決定理論は4つの下位理論が存在する。

認知的評価理論は環境変数心理的欲求の充足にどう影響しているかを説明するものである。

内発的動機付けとは行動自体を動機付けとする行動であり、外発的動機付けとは行動とは別の目的を動機付けとする行動である。自律性,有能性の充足は内発的動機付けに関与しており、充足を促進/阻害する環境変数に内発的動機付けは影響される。そして、環境変数の効力は情報的/支配的な社会的文脈の相対的顕著性により定まるとした。

有機体統合理論は外発的動機付けに自律性を軸とした差分を説明するものである。

内訳は自律性が低い順に、外的調整,取り入れ的調整,同一化的調整,統合的調整である。外的調整は報酬や罰などの外部からの要求を動機付けとする。取り入れ的調整は罪悪感や恥などの感情を動機付けとする。同一化的調整は外部からの要求に上乗せした対象の目標を動機付けとする。統合的調整は要求に見出した価値を動機付けとする。この差分は連続的だが、心理的欲求の充足次第である程度無視した動機付けが可能である。また、外発的動機付けの内在化(内的調整への接近)には関連性の充足が中心的となる。

因果性志向理論は対象が持つ動機付けの志向について説明するものである。

志向性は自律性志向,統制的志向,非人格的志向の3つがある。自律性志向は興味関心と統合された価値に基づいて自身を統制する志向であり、内発的動機付けや内的調整などの動機付けと関連する。統制的志向は外部からの指示に基づいて自身を統制する志向であり、外的調整などの動機付けと関連する。非人格的志向は目標を設定しないか非効率な目標に従う志向であり、無気力や非意欲(アモチベーション。動機付けされていない状態)と関連する。自律性志向の人は行動と思考の一貫性に正の相関があるが、統制的志向の人は弱い或いは負の相関を示した。また、志向は本人の特性と環境変数によって構築され、情報的/支配的な社会的文脈と関連する。

基本的欲求理論は心理的欲求の充足による幸福感への影響を説明するものである。

人が抱く願望には2種類あり、それぞれ心理的欲求の充足を掲げる内発的願望と、外的報酬などの獲得を掲げる外発的願望である。基本的に、前者は幸福度と正の相関を、後者は負の相関を持つ。これは、外的報酬が心理的欲求の充足をもたらさないことに起因する。また、心理的欲求充足の経緯、すなわち情報的/支配的な社会的文脈にどれだけ暴露したかにより、抱く願望の相対的顕著性が定まる。そして、文化によって心理的欲求の充足方法に差は存在するが、心理的充足が幸福感をもたらすという傾向はいかなる文化であっても観測されている。

 

※印は英文の翻訳文を掲載しているため、誤りの可能性があります。

 

引用文献

Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2002). Overview of self-determination theory: An organismic-dialectical perspective. In E. L. Deci & R. M. Ryan (Eds.), Handbook of self-determination research (pp. 3–33). University of Rochester Press.