「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{11}Jackie Hammill, Thinh Nguyen et al. 2021

本研究は、アクティブラーニング,反転教室,ゲーミフィケーションの理論的概念を導入し、学生の学業に対する関心とアカデミックスキルの向上を狙う。

本研究の序説では認知心理学におけるチャンキングについて触れられている。認知負荷理論に則れば、上記の理論的概念は認知負荷を過剰に与えることがないため、学習効率の向上やより高度な問題解決能力の発育に有利なはずである。また、ゲーミフィケーションを導入し動機付けを与え、学生の学業に対する関心を高める算段である。なお、今回のゲーミフィケーションは自己決定理論に基づき論じられている。

本研究は2018年のオーストラリアの大学で行われた。1日3時間を週3日、計4週間配信しこれを1コース分とした。コースの定員を38名とし、36名(男性26名)をデータセットに用いた。コース最終週に自己申告のアンケートに回答してもらうよう依頼した。コース最終日にフォーカスグループを実施し、録音データを書き起こした。アンケートと録音データをもとに、ゲーミフィケーションの要素がコースの意欲関心に与える効果を測定した。本研究は混合研究法のアプローチを利用した。

プロセスは主に授業外と授業内に分けられる。参加者は授業前に次の授業の予習教材にアクセスでき、また予習教材を題材とした200字程度の要約文を求められた。フィードバックは要約文投稿から8時間以内に行われた。要約文は参加者の最終成績の30%を占めた。授業前のプロセスでは、フィードバックと"挑戦的な"課題がゲーミフィケーション要素として設けられた。授業内では、参加者はグループに分けられ、予習した内容のプレゼンを行った。授業では必要に応じて講師のサポートを受けられた。プレゼンでは積極的な質疑応答や交流が奨励された。プレゼン後、全体でのフィードバックが設けられた。このプロセスでは参加者の自律性,有能性,関連性の充足と創造性の発達、プレゼンテーション能力の向上をねらった。

結果。要約筆記におけるフィードバックは参加者の意欲を有意に向上させ、また参加者の回答からフィードバックと要約技術に何らかの関連性があることが示された。プレゼンは参加者の理論習得に一助し、また自律性と関連性の充足に関するコメントも多数寄せられた。全体として、参加者は学習意欲が有意に向上したと報告し、また自律性,有能性,関連性の充足も報告された。

この結果は、アクティブラーニング,反転教室,ゲーミフィケーションを導入した教育・学習プロセスが、学生の意欲関心に寄与していることを示唆している

この研究の限界として、一事例研究法であるため一般化に限界があること、また上記理論的概念が意欲関心に寄与していることを示唆するのみで、その具体的な経路が判明していないことなどが挙げられる。

 

引用文献

Jackie Hammill, Thinh Nguyen, and Fiona Henderson. Encouraging the flip with a gamified process. International Journal of Educational Research Open Volume 2, 2021, 100085