「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{147}Wen-Hao Huang, Wen-Yeh Huang, et al. (2010)

ARCSモデルに関するレビュー調査。

 

ARCSモデル(Keller 1983)は期待値理論(例えば、Driscoll, 2000)から派生した動機付け理論であり、人間の行動は成功の確率の知覚と成功による影響の知覚の複合関数により予測できるとした。知覚要素は、学習者が支持刺激に対し抱く認知反応である注意、学習者が自分の予備知識と新しい情報の間に認識できる関連性のレベルである関連性、学習者が学習課題をうまく達成できる可能性の認識である自信、投資した努力と受け取った学習成果及び成果との間の主観的な認知評価である満足度、の4つからなる。注意を受け、価値を理解し、成功するかしないかの可能性を見定め、実行に足りうる動機付けを獲得、実行し得たものと理想の乖離や絶対値により次のサイクルの3つの変数が変動する(DGBLモデル: Keller 2008)。動機付けのダイナミックな変動とその要因に目を付けた理論体系。

RQ:ARCSモデルの注意・関連性・信頼性が満足度を有意に予測するか。

 

手続き。オンライン教育ゲーム「Trade Ruler」を採用、貿易と経済を題材としたゲーム。ゲームと学習者によるマルチメディア理論に則った動機付け要因の活発な交流があること、参加者の予備知識がない範囲を題材としたもので交絡を排除できることが採用理由。

米国の公立大学を対象、264件のデータが有効。参加者はコンピュータ室で中断を最小限に抑えながらゲームプレイを要求された。時間制限は特に設けず、参加者はゲームプレイ前に特定の教材を読むよう指示された。プレイ後、参加者は質問紙に答えてもらった。

動機付け処理の測定はIMMS(Huang et al. 2006)を採用。

 

結果。因子負荷量が.60を超えない項目を削除、調整した結果、4つの要素を表す17項目が抽出された。内訳は、注意3項目・関連性5項目・自信5項目・満足4項目である。

注意・関係性・自信を独立、満足度を従属に設定。回帰分析の結果、3つは満足度の有意な予測因子であり分散の43.4%を説明した。関係性が最も強く予測し、次いで注意、自信であった。

以上より、ARCSモデルの3要素による動機付け要因が動機付けの結果に作用していることが確認された。学習者は学習成果を努力の公正な結果と考える可能性がある。この知覚が大きくなるほど、特に学習者と学習対象との関連性が強固であると知覚した時、このサイクルはより潤滑に回る。ただし、このモデルは動機付け分散の半分に満たないことを留意すべきである。

 

 

参考文献

Wen-Hao Huang, Wen-Yeh Huang, Jill Tschopp. Sustaining iterative game playing processes in DGBL: The relationship between motivational processing and outcome processing. Computers & Education, Volume 55, Issue 2, 2010, Pages 789-797, ISSN 0360-1315, https://doi.org/10.1016/j.compedu.2010.03.011.
(https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0360131510000977)