「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{5}Paula Bitrián,Isabel Buil and Sara Catalán. 2021

本研究は、モバイルアプリに組み込まれたゲーミフィケーション心理的欲求充足に及ぼす影響について調査したものだ。

本研究におけるゲーミフィケーションはHofacker et al.(2016)の「顧客価値を高め、価値創造行動を促すことで購買意欲やサービスを強化するためのゲーム要素」と定義づけている。また、今回用いる理論的枠組みは自己決定理論を基にしたSSMMD(The self-system model of motivational development)(Connell,1990)を用いる。SSMMDとは環境変数が個人の動機付けに影響を与え、促進/阻害する過程を説明するものである。

これを踏まえ、以下の仮説を立てた。ゲーミフィケーションにおけるバッジ,リーダーボード,ポイントなどの目標要素、協力,競争,SNS機能などの社会的要素、アバター,ストーリー,自由度などの没入的要素はそれぞれ自律性,有能性,関連性を充足する。心理的欲求の充足はユーザーエンゲージメントに正の影響を与え、アプリの継続的利用,クチコミの質量,およびアプリの評価に正の影響を与える。

方法。ゲーミフィケーションが導入されたFitbitアプリの米国利用者(支持率95%以上)にアンケート。参加者はアンケートに回答することで0.70ドルを受け取った。ゲーム要素との相互作用はXi and Hamari.(2019)に、有能性,関連性はXi and Hamari.(2019)に、自律性はXi and Hamari.(2019)とStandage.(2005)に、ユーザーエンゲージメントはO'Brein et al.(2018)が開発したUES-SFに、継続的利用はTu et al.(2019)に、クチコミの質量はHamari and Koivisto.(2015)に、アプリの評価はPeng et al.(2015)に従い評価した。事前の測定により、共通手法バイアスはないことが示唆された。仮説の検証はSmartPLS 3.0を用いた部分的最小二乗回帰を用いた。

結果。目標要素は心理的欲求充足を促進することが分かった。社会的要素は関連性充足を促進するが、有能性充足と有意な関係はなく、自律性充足と負の相関を示した。没入的要素は関連性充足と正の相関があり、自律性,有能性充足と有意な関係はなかった。また、心理的欲求の充足がユーザーエンゲージメントを促すことを示唆した(自律性β=0.425 t=6.833, 有能性β=0.435 t=6.557, 関連性β=0.130 t=2.622)。そして、ユーザーエンゲージメントは継続的利用,クチコミの質量,アプリの評価と正の相関を持つことが実証された。

考察。今回の研究は目標要素が心理的欲求の充足を促進し、充足がユーザーエンゲージメントを高めることを実証した。没入的要素が関連性充足のみと関連したが、それらが参加者の感情を揺さぶったとしても有能感の認知(Xi and Hamari,2019)や意思決定(Sailer et al,2017)にさしたる影響を及ぼさないとした先行研究と一致する。社会的要素が自律性充足に負の相関を示した理由として、社会的要素(協力,競争など)が外的因果として受け取られ、意思決定に影響を与えたからだと推測される。

 

引用文献

Paula Bitrián,Isabel Buil and Sara Catalán. Enhancing user engagement: The role of gamification in mobile apps. Journal of Business Research Volume 132, August 2021, Pages 170-185