「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{36}要約:Dmitri Williams, Nick Yee, Scott E. Caplan. 2008

本研究は、MMORPGのプレイヤーの基本的な情報・メディア利用・健康・メンタルヘルス・動機付けに関する情報を収集、その属性を一般人口と比較し特徴を列挙するものである。

本研究が施行された2000年代は、ゲームプレイヤーに対するステレオタイプが一定量確認されていた。一日の大半を室内で過ごす、不健康で、社会性に欠けた若年男性という、世間一般には好かれそうにない特徴を持つと、偏見を持たれていた。「日本でも、こうした偏見の表れが『ゲーム脳』として顕在している」。学術的な研究者が答えるべき1つの疑問は、それらのステレオタイプの真偽である。

また、本研究はYee (2006)をはじめとするゲームに対する動機付けと、プレイヤーの属性との相関も分析対象である。本研究は、ゲームサーバーのデータを利用することなくプレイヤーの動向と動機付けを調査する初めての研究である。

方法。『EverQuest2』プレイヤー約7000名を対象とし、自己報告式の質問票による調査法を用いた。インセンティブとしてゲーム内アイテムを提供した。基本的な情報の測定について、年齢・性別・人種・世帯収入・学歴・宗教を尋ねた。メディアの利用状況を測るため、週あたりのテレビ視聴時間・新聞を読む頻度・インターネット接続速度などを尋ねた。健康状態の測定について、体重と身長(BMI)・運動習慣・身体的障害について尋ねた。メンタルヘルスの測定について、うつ病・依存症・不安障害の診断を受けたかどうかを尋ねた。動機付けの測定について、Yee (2006)の達成感,社会性,没入の3つの因子構造を参考に、質問項目を10個に圧縮した。サーバー間の違いを検証するためのANOVAを行った。ゲームのデータベースからは総プレイ時間を得た。

結果。全プレイヤーの週あたり平均プレイ時間は25.86時間(SD=19.06)、サーバー間による有意な差分はなし。平均年齢は31.16歳(SD=9.65)。男女比は80.80%対19.20%で男性のほうが多い。プレイヤーは基本的に平均より裕福な家庭環境にある、平均84,715ドル(SD=104.171)、平均世帯58,526ドル。所得とプレイ時間に有意な関係はなし。プレイヤーの学歴は一般人口より高い。プレイヤーの宗教への帰属の割合は一般人口に比べ低い。テレビ視聴時間について、プレイヤーは週に平均21.56時間(SD=27.02)、一般人口は31.5時間。BMIについて、プレイヤー平均25.19(SD=8.19)、一般人口28。プレイヤーの22.76%はうつ病と診断されたことがある。

動機付けについて。圧縮した10個の質問項目は3因子に対し十分な信頼性と妥当性を確保した。総プレイ時間との関係について、3因子すべてが有意に予測し、没入は負の相関を、社会性と達成感は正の相関を示した。

以上より、少なくともMMOプレイヤーの間では、ゲームプレイヤーに対するステレオタイプが正確ではないことが示唆された。サンプルの限りだが、若年層よりも高年齢層が、男性よりも女性が、週あたりのプレイ時間が長い傾向にあり、青少年や大学生には自由な時間が多いだろうという仮定が誤りであることも示された。テレビ視聴時間について、選択されるメディアの入れ替わりが生じた結果、プレイヤーの視聴時間が比較的少なくなったと推測している。

総プレイ時間と動機付けに関して、最も強く予想するのは達成感であった。没入の構成要素と総プレイ時間に負の相関があることについて、対象ゲームのロールプレイング要素が満足感や説得力に欠けることが原因と考えられる。

 

 

参考文献

Dmitri Williams, Nick Yee, Scott E. Caplan. Who plays, how much, and why? Debunking the stereotypical gamer profile. Journal of Computer-Mediated Communication, Volume 13, Issue 4, 1 July 2008, Pages 993–1018,