「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{4}Rob van Roy and Bieke Zaman. 2019

この論文は、ゲーミフィケーションが自己決定理論における心理的欲求の充足に与える影響に焦点を当て、質的混合研究を行ったものである。

自己決定理論の観点から分析する限り、頻出のゲーム要素であるバッジ,ポイント,リーダーボードはどれも外発的動機付けである。(意思決定の因果が自身ではなく外部評価に移行するため)外発的動機付けは内発的動機付けを阻害する作用があり、これが先人の研究において「ゲーミフィケーションは効果的ではない」と評価された一因ではないかと推測。また、ゲーミフィケーションの導入環境がゲーム要素の効果を左右するという知見もある。これを踏まえ、ゲーミフィケーション心理的欲求充足に与える影響を議題とした。

方法。自己決定理論とvan Roy and Zaman.(2017)を参考に(1)12週分の習慣目標(2)71個の実績(3)対集団競争のゲーム要素をGoogle+コミュニティに導入、ベルギーのHCI(Human-computer Interaction)修士課程を中心に展開した。コミュニティへの参加は任意だが、参加の催促を行った。15週間の実験期間中、参加者に計4回のアンケートを行った。実験末期に参加任意のフォーカスグループインタビューが行われ、セッションは録音した。Corbin and Strauss.(1990)を参考に、アンケートとセッションの記録から記述的分析を行った。44人が参加し、40人が少なくとも1回はアンケートに答えた。

詳細。(1)はレベルアップと自由参加の要素を盛り込むことで、有能性と自律性の充足を目的とした。(2)は有能間の充足を目的としたが、外発的動機付けとならないよう(自律性を阻害しないよう)獲得条件を非表示にした。(3)は参加者を取り組みたい課題を基準にグループを作り、アプリ内活動で獲得したポイントを基準としたグループ間競争を設計した。また、グループ専用ロゴなど参加者の帰属意識を強化する仕様も導入された。関連性と有能性の充足を目的とした。ゲーム要素によるフィードバックは手動で、1日平均2~3回更新された。

結果、ゲーム要素による心理的欲求の充足には両義性が存在することが示唆された。基本的には、これらのゲーム要素が参加者の自律的な動機付けを喚起することを立証した。(3)は関連性充足に正に影響したが、順位低下による有能性充足の阻害、個人の成功が必ずしもチームの成功につながらないことからくる自律性の阻害が確認された。また、(1)(2)の外的因果を伴う導入(アプリ内行動の成績への反映など)をアンケートの自由記入欄に回答した参加者がいた。これを、自律性充足を踏み倒してでも有能性の充足を重んじるベルギーの教育制度(文化的要因)が原因だと推測。実験中、競争への協力を躊躇う参加者が観測されたが、これは教員がアプリを介して監視しているという警戒心によって帰属意識が阻害された可能性がある。

結論。これらの結果は、ゲーミフィケーションは教育プラットフォームの動機付けにおいて重要な立ち位置であるという、Sailer et al.(2017)などの知見に付け加えられる。また、一部の研究で問われていたゲーミフィケーションの非効果性は、ゲーミフィケーションの両義性によって説明できるかもしれない。ゲーミフィケーションの効果は状況性により変動することが示唆された。今後は、フロー理論や目標達成理論なども用いて分析を行う。

 

引用文献

Rob van Roy and Bieke Zaman. Unravelling the ambivalent motivational power of gamification: A basic psychological needs perspective. International Journal of Human-Computer Studies Volume 127, July 2019, Pages 38-50.