「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{209}Zhiru Sun, et al. 2018

反転授業の自己調整学習の観点からの解釈。

 

In a flipped class,students are expected to be self-directed and complete pre-class tasks inorder to be well-prepared for in-class activities (Talbert, 2014). To actively engage in in-class activities, students need to set personallearning goals, deploy appropriate learning strategies, and be capable ofmonitoring their behaviors (Estes, Ingram, & Liu, 2014). In this situation, knowing how to regulate time, resources, and strategies to achievelearning goals is important (Connor, Newman, & Deyoe, 2014). Research shows that students with higher levels of self-regulation tend tolearn effectively and achieve better in a flipped classroom than thosewith lower levels of self-regulation (Lai & Hwang, 2016). In the presentstudy, we used self-regulated learning theory as the underlying theoretical framework in guiding the investigation of students' learningprocesses in the flipped classroom model.

反転授業では、授業中の活動に備えるために、学生は自己主導的で授業前の課題を完了することが期待される(Talbert, 2014)。授業中の活動を積極的に行うためには、学生は個人的な学習目標を設定し、適切な学習戦略を展開し、自分の行動を監視することができる必要がある(Estes, Ingram, & Liu, 2014)。このような状況では、学習目標を達成するための時間、資源、戦略をどのように規制するかを知ることが重要である(Connor, Newman, & Deyoe, 2014)。自己規制のレベルが高い学生は、自己規制のレベルが低い学生よりも、反転した教室で効果的に学び、より良い成果を上げる傾向があることが研究で示されている(Lai & Hwang, 2016)。本研究では、反転授業モデルにおける学生の学習過程の検討を導くための基礎的な理論的枠組みとして、自己調整学習理論を用いた。

 

自己調整学習のプロセス。動機づけ・行動・メタ認知戦略のセットにより導かれる総合的な学習プロセス。各段階は、課題と個人の能力について定義し、満足いく課題遂行のための計画を立て、想定する結果を得るために計画を施行し、評価を得て次に進む、という流れになる。

特に、課題と個人の能力をどう定義づけるか、どのように計画を遂行するかが重視される。定義の段階において事前知識と自己効力感は大きく作用する。計画遂行にはどのような学習戦略を持っているかが重要となる。最終的に、事前知識・自己効力感・学習戦略が全体的な学習プロセスに作用し、学習効果を得るという仕組み。

 

手続き。大学の反転授業を採用する16のコースから151名(男性47.9%)が参加。

14週間のコースで週3回のオンライン授業と週2回の暗唱セッション(学んだことを発表する場に相当)で構成される、科目は微積分。Desire2Learnでコースを作成。学生は、オンライン授業の視聴と暗唱セッションの準備も兼ねた宿題の仕上げ、暗唱セッションへの参加、の2つを主に行う。オンライン授業の参加は義務付けられた、オンライン講義は Bloom's Revised Taxonomy (Krathwohl, 2002)を参照に構成、オンライン授業自体は端末があればどこでも受講可能であった。また、フォーラムで交流も可能だった。

計測。事前知識・自己効力感(MSE/CLSE/ISE)・学習戦略下位尺度(MSLD)・学習成果。

データ準備・スクリーニング・モデル推定を含むSEM

 

結果。以下は最終モデル。

ここで、認知戦略の最終成績へのパスが負の値になっていることから、さらなる分析。

The results suggest that cognitive strategy could be classified as anegative suppressor variable. Cognitive strategy use was significantlyand quite highly correlated with metacognitive strategy use (r = 0.67),and metacognitive strategy was a better predictor of achievement whenboth variables were included in the multilevel regression model (model2: β = −0.02, p = 0.88 for cognitive strategy and β = 0.26, p = 0.04for metacognitive strategy). When the metacognitive strategy measureaccounted for a certain variance in achievement, the remaining variance correlated with the cognitive strategy revealed a negative relation. In other words, the analysis suggests that a significant number ofstudents who reported that they often used cognitive strategies alsoreported infrequent use of metacognitive strategies during in-classlearning. Examination of the actual number of students who showedthis pattern revealed that 10 students (9% of the sample) could beclassified as being in the top half on cognitive strategy use and thebottom half on metacognitive strategy use

この結果から、認知戦略は負の抑制変数として分類される可能性があることが示唆された。認知戦略の使用はメタ認知戦略の使用と有意かつかなり高い相関があり(r = 0.67)、メタ認知戦略は両変数をマルチレベル回帰モデルに含めた場合に達成度の予測因子として優れていた(モデル2:認知戦略:β = - 0.02, p= 0.88, β = 0.26, p = 0.04).メタ認知戦略尺度が達成度のある分散を占める場合、残りの分散は認知戦略と相関があり、負の関係が明らかになった。つまり、認知戦略を頻繁に使用すると回答した学生のうち、クラス内学習時にメタ認知戦略の使用頻度が低いと回答した学生が相当数いたことが分析から示唆された。このパターンを示した実際の学生数を調べたところ、10人(サンプルの9%)の学生が認知戦略の使用で上半分、メタ認知戦略の使用で下半分に分類されることがわかった。

メタ認知戦略の使用自体は成績と正に関係する。が、メタ認知戦略と認知戦略の誤認? あるいは認識のずれが負の変数として現れた可能性? 「例えばこういったものがメタ認知戦略である」と具体的に提示されたときに、じゃぁ自分のは違うわ、ってなったパターンか?

 

結果として、数学における自己効力感とヘルプシーク戦略の使用は、反転授業における数学成績に有意に正の影響を与える。

ヘルプシーク戦略(help seeking strategies)について。「グループベースの学習では、教員や仲間に助けを求めやすいような構造を提供すべきである」とあるため、他者にわからないところを伝え助言を求める学習戦略のことを指すと思われる。研究が示唆することはおそらく、少なくとも数学のオンラインを用いた反転学習においては学習者に対するバックアップが不可欠であること。いつでも頼れる、腰を据えて学習できる安心感はやはり必須か。

また図を参照する限り、自己効力感がヘルプシーク戦略の使用に関わっている。Bandura(1997)は事前の成功・他者の成功の観察・言語による説得が、生徒の課題遂行に対する自信を獲得するための要因として掲げている。特に、これまで数学の成績が低かった生徒は、学ぶための事前知識もなく成功した時のシチュエーションも想定できないため、かなりのディスアドバンテージを背負う。自己調整学習のための要素が欠けているため、その補助が必要となる。

 

 

参考文献

Zhiru Sun, Kui Xie, Lynley H. Anderman, The role of self-regulated learning in students' success in flipped undergraduate math courses, The Internet and Higher Education, Volume 36, 2018, Pages 41-53, ISSN 1096-7516, https://doi.org/10.1016/j.iheduc.2017.09.003. (https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1096751617304542)

{208}Maria Theobald. 2021

大学生に対する自己調整学習の効力についてメタアナリシスしたもの。

 

自己調整学習(SRL)は準備段階・実行段階・評価段階の3つのサブプロセスを包含する概念であり(Panadero, 2017)、また取る戦略も認知戦略・メタ認知戦略・資源管理戦略の3つに大別される。認知戦略はリハーサルやエラボレーション、組織化など情報処理において優位に立とうとする戦略であり、既存の知識との統合に役立つ。メタ認知戦略は認知戦略の使用を監視し、これが有意に働いているかを確かめるもの、目標設定やモニタリングなどがあたる。資源管理とは内的資源と外的資源の管理を意味し、学習に内的資源を回せるように、外的資源に気が散らないようにするために制御するもの。

 

手続き。PRISMA君。検索式は以下。

abstract:("intervention" OR "training" OR "treatment" OR "foster*") AND abstract:("university" OR "college" OR "undergraduate" OR "undergraduate" OR "graduate" OR "graduates" OR "high* education" OR "post-secondary education") AND abstract:("study skills" OR "learning strategies" OR "self-regulatory strategies" OR "self-regulatory skill" OR "metacognitive skills" OR "metacognitive strategies" OR "time management" OR "resource strategies" OR "self-regulated learlls" OR "self-motivation" OR "study stood stood" OR "learning style" OR "cognitive strategies")

検索条件は英語文献およびドイツ語文献、出版済み文献・未出版文献・(オンラインデータベースで追跡可能な)灰色文献を対象とした。

SRLを題材とした直接的な介入を対象とした。また在学の大学生が研究対象であること。サンプルは最小10人。実験・準実験的な事前・事後テストの比較を用いた研究の実を対象。以下は細かい選別手順。変数として、学業成績・認知戦略・メタ認知戦略・資源管理戦略・動機のアウトカムについて明記されていること。最終的に49の論文が調査対象となった。

 

結果。大学生を対象としたSRLトレーニングの平均効力は少から中程度である、academic performance(g = .37), cognitive strategies (g = .32), metacognitive strategies (g = .40), resource managementstrategies (g = .39), and motivational outcomes (g = .35) (Cohen, 1992)。

学業成績への効力は少中学生のそれよりかは比較的小さいが、それでも有意に働いている。また、GPAとの相関はこれより比較的小さくなり、これはGPAが長期的な学習成果を反映しているためと考えられる。

メタ認知戦略の指導について、認知戦略をいつ、どのように、そしてなぜ適応するのかを教えれば特に効果的であることが示唆された。メタ認知的考察を含むトレーニング方法は、これを含まないトレーニング方法よりも比較的好成績であった。

認知戦略の効果は比較的小さい。大学生ともなると自分なりの学習方法を(まがいなりにも)確立しており、新たに提示しても棄却される選択肢として在ると考えられる。これへの対処として、より広範な認知戦略を提示し、自身のそれと統合しやすいものを選択してもらうことが考えられる。

資源管理戦略について。目標を設定し、計画を立て、進捗を監視し、振り返る。動機づけや時間、学習環境を統制する方法は、進捗を監視し自己申告するものよりも比較的効力が低く、これは前者の手法が学生にとって困難なものであることの示唆として受け取る。

協調的な学習の場合、認知戦略とメタ認知戦略の効力が大きくなる、つまりその戦略により値がより揺さぶられる。目標設定や計画などメタ認知戦略の施行が困難な学生は、学習時間を友人と共有し、またフィードバックを得るという方法が効果的である。

教師からのフィードバックはメタ認知戦略と資源管理戦略の効力を大きくした。学生自身が行うフィードバックも計画や目標の見直しに役立つ。自省の支援という意味で、フィードバックは多いに機能する。

生徒自身による資源管理戦略、特に学習プロトコルは学生の時間管理に有利である。自分の学習時間ぐらい自分で決めたいものである。また、成績不振者は時間管理や研究管理の難しさを頻繁に訴える傾向にある(Balduf, 2009)。この傾向は時間管理のためのメタ認知能力が発達途上なのか、はたまた外因環境的に時間が不足しているのか、おそらくどちらも影響するのだろう。

共通して、メタ認知戦略、つまり「それは真に効果的であるか」を自身に問う自省的行為の向上につながり、これが成績へ影響する。違う論理を持ち出すが、効果的であるかどうかもわからず闇雲に進めても有能感の充足はなされない、真に効果的であるかどうかを振り返り、フィードバックを得るのが効果的であるのは驚くことではない。

メタ認知戦略による自省的行為が功を奏すか、SRLにより学生の自己効力感が増加した。先ほどの理屈はあながち間違いではないのかもしれない。

 

 

参考文献

Maria Theobald. Self-regulated learning training programs enhance university students’ academic performance, self-regulated learning strategies, and motivation: A meta-analysis. Contemporary Educational Psychology, Volume 66, 2021, 101976, ISSN 0361-476X, https://doi.org/10.1016/j.cedpsych.2021.101976. (https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0361476X21000357)

{207}Weinstein, C. and Mayer, R. (1986)

学習方略に関するレビュー。

 

It is strange that we expect students to learn yet seldom teach them about learning. We expect students to solve problems yet seldom teach them about problem solving. And, similarly, we sometimes require students to remember a considerable body of material yet seldom teach them the art of memory. (中略) We need to develop the general principles of how to leam, how to remember, how to solve problems, and then to develop applied courses, and then to establish the place of these methods in an academic curriculum. (Norman 1980 p. 97)

学生が学習することに期待するのは奇妙だが、学習について教えることはめったにない。私たちは生徒が問題に取り組むことを期待するが、問題解決について教えることはほとんどない。同じように、記憶してほしい学習材料は教えても、綺麗な記憶の仕方を教えることはない。(中略)学習方法、記憶手順、問題解決の手段、または応用的な取り組みに対する一般原則を策定し、学術カリキュラムの中での立ち位置を確立する必要がある。

 

教員が何を知り、どう教えるのか。生徒が何を知り、どのように学ぶのか。それを踏まえ、同認知処理し、どう学んだかが、成績に影響する。

基本的なリハーサル方略、リストになっているものを順番に、記憶する。複雑なリハーサル方略、授業で提示された教材をコピーし、下線やマーカーなどで強調する。

→コピー戦略は対象を比較的多く想起できるが、50%の確保に対し3倍の時間を要する。また、コピー戦略の対象となった要素は覚えるが、知識としてつながりがなく、ネットワーク構築に活きた証拠は(論文発表時点では)ない。

基本的な精密化戦略、覚える対象に応じた心的イメージを作成する。複雑な精密化戦略、対象の要約・言い換え・他の知識との結びつきなどを行う、[187]で問われた学習の定義に沿うやり方。

→情報に優先度の概念を付与・単語の省略・自身の言葉に言い換える・概要化、の組み合わせが利くという。

組織的戦略、リストや文章から覚えるべきところをグループ化する、年表を作ったりなど。複雑な組織化戦略、より広範な要約と概要(アウトライン)の作成、要素の関係を示す図式を作ったりなど。

→知識の構造作成を目的とする動き。[任意番号]で他の論文との結びつきを計る動きや、前記のように自身の行為との結びつきを作る行為など。主要な事象を定義・明確化・拡張する「一般化」、これを列挙する「列挙」、ある過程における列挙した一般化知識の時系列に沿った進行を記述する「順序」、順序を経た知識群をカテゴリ分けする「分類」、カテゴリ分けした2つ以上の知識群を比較する「比較」、のプロセスが有効である。

理解度モニタリング戦略、いわゆるメタ認知、どれだけ事象を理解しているかを自身に問う、または教科書の問いかけを応用する。

→自分は何が目的で学習しているのか、今何を学ぶべきか、何に躓いているか、何を評価すべきかを認知する。

情緒的方略、学習のための環境確保、あるいはリラクゼーション、不安への対抗策とも。

→こと長期的な学習となると、学習者の感情を無視することはできない[201]。

 

1:なにを学びたいのか、何を学ぶべきか(つまり学習目標・動機)を確定させる。

2:それを参照して、情報の格付けを行う。いらないと思った情報は容赦なく切り捨てる。

3:重要度の高い情報から学習、自分の言葉に翻訳し、圧縮する。自身の言葉にする都合上、自身の既存の知識との結びつきが必須となる。

4:翻訳した知識を時系列または順序だてて整理する。

5:知識を分類、タグ分けする。

6:他の知識との比較段階に入る。これは自身の既存の知識との結びつきの段階でも生じるが、いったん整理してからのほうが捗る。

なんか私がいつもやってることだねこれ。

 

 

参考文献

Weinstein, C. and Mayer, R. (1986) The Teaching of Learning Strategies. In: Wittrock, M., Ed., Handbook of Research on Teaching, Macmillan, New York, 315-327.