「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{8}Jonna Koivisto and Juho Hamari. 2019

この研究の目的は、ゲーミフィケーションの概念に関する現存の文献を包括的にレビューし、情報システム研究分野におけるゲーミフィケーションと動機付け情報システムにおける研究課題を理論化することにある。

また、ゲーミフィケーションを対象とした包括的なレビューはHamari et al.(2014)を例に行われており、論文ではそれら知見と対照した見解も記述されている。

方法。文献検索はScopusデータベースとAIS電子図書館で行った。Scopusデータベースでは会議論文,記事,出版中の記事,レビュー,書籍の章に限定したうえで「TITLE-ABS-KEY(gamif*)」と検索した。AIS電子図書館では「abstract:gamif* OR subject:gamif* OR title:gamif*」と検索した。検索フィールドはScopusではタイトル,抄録,キーワード、AIS電子図書館ではタイトル,抄録,サブジェクトと定義された。文献検索は2015年6月に行われた。分析対象である実証研究は、最終的に273件残った。

レビュー内容を列挙。

ゲーミフィーケーションの実証研究において最も多いジャンルは教育系であり、次いで健康と運動、3番目にクラウドソーシング関係だった。この3つのジャンルは実証研究における7割以上を占める。また傾向として、ゲーミフィケーションは長期的な努力が必要な領域において特に実施されている。

実証研究では量的研究手法が最も多く、次いで混合的研究手法であり、質的研究手法は少数である。データ収集の方法としてはアンケートや調査が最も多く、データ分析の方法は定量的または定性的なものが用いられている。サンプルサイズの中央値は74.5、平均値は1165、範囲は1~42,724だった。

導入されたゲーム要素について、合計で47個の要素が用いられていた。一般に、ポイント,バッジ,リーダーボードは最もよく導入されるゲーム要素であり、今レビューにおいてもその傾向が見られた。このような傾向が現れる理由として、既存のシステムに組み込みやすいこと、「よく用いられている」という知見を参考にゲーミフィケーションが組まれていることが挙げられる。

用いられた心理的指標の分析から、ゲーミフィケーションの実証研究において関心が高いのは、その実装がどのように知覚されるか、また楽しさや動機付けにつながるかである。

66件の対照実験的定量研究の結果を見ると、肯定的な報告が28.7%に対し、混合的だが肯定的な報告が47.0%であり、大多数がやや複雑な結果を報告している。完全に否定的な報告をしたのは66件中2件だった。動機付けの効果は個人的要因や文脈的要因に大きく左右されるという知見も踏まえると、このことは、ゲーミフィケーションが『銀の弾丸』のような策ではないことを示している。

これらのレビューを元に、15の研究課題を提供する

1)今後のゲーミフィケーションでは、集団的・協調的なゲーム要素の可能性を追求する必要がある

2)また、ゲーム要素を多様化し、なにが動機付けに関与しているかの理解を深めるべきである

3)また、調査対象領域を頻出の3分野以外にも広げ、視野を広げる必要がある

4)ゲーミフィケーション導入で予想されるネガティブな効果(例:競争の副作用)とその対策を探るべきである。

5)コンピューターゲーム的なゲーミフィケーションだけでなく、より概念的に、組織や個人の実践を想起させるものとして考えることが望ましいとされる

6)今後の研究は、ゲーミフィケーション導入による効果だけではなく、その理論的要因も求めるべきである

7)ゲーミフィケーションの効果は、今後、個人的要因を考慮する必要がある。

8)同様に、文脈的要因を考慮する必要がある。

9)ゲーム要素がもたらす複数種類のフィードバックの効果と因果を追求する必要がある

10)ゲーミフィケーションの理論的概念化は、対象の定性的な性質を踏まえたものにする必要がある

11)メタアナリシス的な見解を促すため、今後の研究は、測定機器や研究モデルの一貫性を図り、また分析の深化も試みる必要がある

12)対照群を添える必要がある

13)今後、ゲーム要素1つひとつの効力を計れるように、ゲーム要素を制御した調査を試みるべきである

14)信頼性の向上のため、サンプル数の増加と研究機関の増加が望まれる

15)今後の研究においては、明確かつ包括的な研究報告に留意する必要がある。

 

引用文献

Jonna Koivisto and Juho Hamari. The rise of motivational information systems: A review of gamification research.International Journal of Information Management Volume 45, April 2019, Pages 191-210