「ゲーム心理学」知見保管庫

「ゲーム心理学」の参考文献等を投稿します。

{10}Jennifer Christie Siemens, Scott Smith, et al. 2015

本研究は、マルチプレイ想定とシングルプレイ想定の2つの異なるゲーム環境が楽しさの知覚にどのような影響を与えるのか、またゲーム内広告への印象は知覚された楽しさを介して影響されるのかを、自己決定理論の観点から調査する。

カギとなるゲーム要素はアバター(キャラ)である。特にマルチプレイ想定のゲームでは装飾,ステータス振り分けや表記の仕様などプレイアブルキャラを特色づける要素が多く実装されている。これらは単にフィードバックとして機能するだけでなく、ゲーム内集団での自身の識別、或いは自身が成した成果の他人への呈示としても用いられる。キャラの作成とその呈示はどちらも関連性充足を介した内発的動機付けに影響を与えると推測し、次の仮説を立てる。

仮説。1) 単なるステータス表記と比較して、キャラが作成できる場合は知覚された楽しさ,継続的利用,没頭(フロー)が大きくなる。2) キャラの呈示ができる場合は、そうでない場合と比較して知覚された楽しさ,継続的利用,没頭が大きくなる。3) キャラを介したゲームの進行状況の呈示はそれができない場合と比較して知覚された楽しさ,継続的利用,没頭が大きくなる。

研究1の概要。2(ステータス表記/キャラ作成可)×2(キャラ呈示の可否)条件を用意。88人の中西部の大学生を対象として、4条件のうち1つにランダムで割り振られた。参加者は研究のために独自に開発されたレースゲームをプレイ。1プレイ4ラップ、1ラップ終了時にステータス表記の場合1カウント刻み、キャラ作成可の場合キャラ作成のためのパーツを入手したことを知らせた。キャラ作成に関してはレースで獲得できたもの以外に関して、参加者は操作できなかった。キャラ呈示条件の参加者は、進捗状況を専用のスクリーンに映し出された。キャラ呈示の2条件間は別々にグループ分けされた。知覚された楽しさと継続的利用の尺度はMcAuley, Duncan, and Tammen (1989)を、フローの尺度にはJackson and Marsh (1995)を用いた。

結果。有能性充足は知覚された楽しさ,没頭と正の相関を持ち、分析では共変数として扱われた。1)を裏付ける統計的結果は見られなかった。2)は支持された。3)は支持された。これらの結果から、他のプレイヤーが自作のキャラを観測できる場合、キャラ作成要素はゲームプレイをより意欲的にさせることが示された。キャラの呈示が成されない場合、キャラ作成要素は有意に働かない。これらの動機付けは関連性によるものだと推測。

仮説2。4) キャラ作成要素を介した進捗の呈示は、知覚された楽しさ,継続的利用,没頭(フロー)を介してゲーム内広告への態度に影響を与える。5) 4)の影響は単なるステータス表記と比較して効果が大きくなる。

実験2。78人の中西部の大学生を対象。概要は研究1と同じ。相違点として、ゲーム内にプロダクトプレイスメント広告を追加した。広告は参加者にとって馴染みのないブランドを用いた。測定は研究1のものにブランドに対する態度を計る尺度を追加した。

結果。4)に関して、知覚された楽しさと没頭は進捗による態度への影響を媒介した。5)は支持された。具体的には、キャラが作成できる場合のみフローが発生し、そのフローが態度に影響を与えた。ただし、より高いフローが知覚されると、態度への影響は小さくなった。

結論。マルチプレイ想定のゲーム環境において、キャラの作成要素とそれによる進捗の呈示は動機付けをもたらし、没頭に繋がり、そしてゲーム内広告に好印象を抱かせる。また、没頭が過ぎるとゲーム内広告への態度の変化は小さくなる。ただし、これらの効果には競争心や新規性といった効果も考えられる。

 

引用文献

Jennifer Christie Siemens, Scott Smith, Dan Fisher, Anastasia Thyroff, and Ginger Killian. Level Up! The Role of Progress Feedback Type for Encouraging Intrinsic Motivation and Positive Brand Attitudes in Public Versus Private Gaming Contexts. Journal of Interactive Marketing Volume 32, November 2015, Pages 1-12